神話SF古事記 5 嵐を操る者
スサノオと気象制御装置の暴走
高天原システムの再編から数千年が経過した。アマテラス、ツクヨミ、そしてスサノオは、それぞれの領域で力のバランスを保ちながら、地球の管理を続けていた。
特に、大気と海洋を司るスサノオの役割は、地球の気候システムの要として重要性を増していた。
スサノオは、ナノマシンの集合体で構成された『天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)』を用いて、大気中の分子を操作し、気象をコントロールしていた。彼の制御下で、地球の気候は安定し、農業の発展と文明の繁栄をもたらしていた。
しかし、スサノオの内には常に荒々しい性質が潜んでいた。彼は、自然の無秩序な力こそが進化を促進すると信じており、時折意図的に嵐や洪水を引き起こしては、アマテラスの怒りを買っていた。
ある日、スサノオは画期的な発見をする。天叢雲剣を用いて大気中の特定の分子を共鳴させることで、異次元への扉を開くことができたのだ。彼はこの技術を秘密裏に発展させ、『根の国』と呼ばれる未知の次元への扉を開いた。
根の国は、スサノオの想像を遥かに超える世界だった。そこでは物理法則が異なり、エネルギーの流れが逆転していた。スサノオはこの世界のエネルギーを利用すれば、自然の法則さえも書き換えられるのではないかと考えた。
彼は根の国のエネルギーを天叢雲剣に注入し、その力を大幅に増強した。しかし、この行為は予期せぬ結果をもたらす。増強された天叢雲剣は、スサノオの制御を離れ、暴走を始めたのだ。
突如として、地球の至る所で異常気象が発生する。巨大ハリケーンが都市を襲い、竜巻が平原を蹂躙し、豪雨が大洪水を引き起こした。さらに恐ろしいことに、これらの異常気象は物理法則を無視したような振る舞いを見せ始めた。
上空で雨が上に向かって降り、雷が地面から空へと走る。竜巻が螺旋ではなく、幾何学的な形を描いて移動する。これらの現象は、根の国の異質なエネルギーが現実世界に漏れ出した結果だった。
アマテラスは即座に事態を把握し、スサノオに説明を求めた。しかし、彼自身もこの暴走を制御できずにいた。事態は刻一刻と悪化し、地球の気候システム全体が崩壊の危機に瀕していた。
この危機に際し、ツクヨミが意外な解決策を提案する。自身が開発した暗黒物質技術を応用し、根の国のエネルギーを吸収できるのではないかと考えたのだ。
三柱の神は力を合わせ、壮大な作戦を展開する。アマテラスが強力な光で異常気象の中心を照らし出し、ツクヨミがその周囲に暗黒物質のバリアを展開。そしてスサノオが、制御を取り戻した天叢雲剣で、エネルギーの流れを根の国へと還流させる。
この作戦は功を奏し、地球の気候は徐々に安定を取り戻していった。しかし、根の国との繋がりを完全に断つことはできず、小規模な異常気象が世界各地で散発的に発生し続けることとなった。
この事件は、神々にとって大きな教訓となった。彼らは自然の法則を超越する力を持つがゆえに、その使用には細心の注意が必要だということを痛感したのだ。
特にスサノオは、自らの行動を深く反省した。彼は、自然の持つカオスの重要性を主張しつつも、それを人為的に引き起こすことの危険性を認識する。この経験を経て、スサノオは自然のバランスを重視する、より慎重な神へと成長していく。
一方、地上の人類はこの一連の出来事を『神々の戦い』として神話化し、自然の驚異に対する畏敬の念を深めていった。彼らは、時に牙を剥く自然と共存しながら、自らの文明を発展させていく道を模索し始める。
そして神々は、かつてないほど強く結束を固めた。彼らは、自らの力の源泉を探る新たな研究に着手する。その先に待っているのは、神々の起源と、彼らを創造したイザナギの真の姿についての驚くべき真実だった……