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絵事常々 -勝手におすすめの墨-

先日の「絵事常々 -制作のながれ⑤ 墨-」、
ありがたいことにスキをたくさん頂けております。
やはり墨の世界が熱いだけに吸引力がありますね。
(「炭違いで吸着力がある!」と言おうと思いましたが自粛)
10以上のスキを頂戴すると私の中では「バズった」です。



さて、そんな中で「するのが楽で、入手手軽なおすすめの墨」をお尋ね頂きました。
こんな風にお尋ねされますと、私は非常に燃えるタイプです。

社寺彫刻の類例とか、日本画材とか技法とか、類義語とか聞かれると応えたくて仕方なくなるタチです。そして質問してくれた人が引いていく。


noteで最初に声をかけてくださった方だもの!応えねば!と
はりきってはいるのですが、いかんせん墨の経験値がそこまでない私。

墨って長持ちするのであまりあれもこれも試してないのですね。
だがここで引き下がってはならぬと、

開き直って、使ってもいない墨を勝手におすすめしよう


というのが今回のお話です。
以下、使用していないため完全なる偏見と推測のもとにお薦め致します。





※ 墨の最小サイズは1丁(重さが15gになるサイズ)
メーカーによって異なりますがタテ8 cmxヨコ 2cm程度です。


まずはおすすめ1

古梅園 三星 紅花墨( 1.0丁 1,400円程度)

これは前職で使っていました。
使っていたというより工房にあったので、使ったことがあるなぁの感じ。
三ツ星だったか五ツ星だったかは忘れましたが、どなたかが選んで購入したものでしょう。

メーカーの古梅園さん曰く
「比較的短時間で色を出すことができる。墨の折りが早くしっかりとした墨色が出ます。練習や普段使いに適しています。」との紹介文です。

前職の工房にあった理由も、比較的短時間で墨色が得られるというあたりにあったのでは…(とりあえず早く磨りたいのです)
嘘か本当か「手塚治虫先生」も固形墨ではこちらを選んでいたということで、手塚氏にのっかってみてはいかがでしょう。


おすすめその2

墨運堂 青龍胎( 0.7丁 1,300円程度)

こちらの墨運堂さんも、墨の大手メーカーです。
伝統的な製造に加え、現代のニーズにも応えている商品多数。

青みがかったマットな黒色で、淡墨から濃墨までカバー。
膠量は少なめ、筆おりも良さそう。
作画用で塗り重ねも容易いとのことです。
同じ墨運堂さんの似た商品に「絵手紙墨」や「清尚」などもあります。
なんとなく「龍」がつくと香りが強いイメージです。


続きましておすすめその3

墨運堂 玉品 ( 1.0丁 800円程度)

こちらも墨運堂さん、かなりリーズナブルな1品がこちらです。

やや濁りのある赤茶系の黒で普通の濃さから濃墨が色よく出るそう。
膠量は墨運堂さんの中で標準の割合です。
重ね塗りや淡墨方面にはやや弱そう。
レビューを見る限り、広く浅く需要をカバーできる気配で
お手軽な1品としてお薦めします。


おすすめその4

日本製墨 長楽 (1.0丁 330円程度)

さらにお安いという点でご紹介。
日本製墨さんもメーカーですが、企画・販売に力を入れている企業です。
ほんとにこの価格で良いのかと不安になりますが、こちらの長楽も先の老舗メーカー古梅園の全面協力のもと製造されています。
品質と手軽な購入を追及された商品かと思われます。






とは言っても使ってみないことにはなんともでしょう。
お店に行ってすったり描いたりできれば一番ですが、そうそうふらっと行けないと便利なネットを利用したいもの。

しかしながら商品説明見てもさっぱりだよ、全部黒い棒だよ、となる。
せめて説明から読み取れそうなポイントを以下にご紹介します。


墨の表記から読み取れること

〇 用途
かな用、漢字用、絵画用…色々あります。
私も何がどうなのかよくわからず調べてみると、こんな傾向です。

かな用
煤の粒子が細かい=たくさんの膠で練る=のびが良い・墨の黒色が弱い

漢字用
墨の黒色を強く出す=一般的に煤の粒子がそこまで細かくない=のびが弱い

墨運堂Webサイト Q&Aより https://boku-undo.co.jp/faq/28/


「絵画用」「作画用」とされているものは、塗り重ねやにじみ・ぼかしがしやすいよう膠量が比較的多く含まれ、よく練り上げられていそうです。
よく練られていないものは墨の定着が悪く、書にしろ絵画にしろ「表装」したときに墨が滲んでしまう(俗に「泣く」と言います)。
かな・漢字での「清書用」という表記も、おそらく「表装に耐えられる」という意味合いが含まれてるのではないかと思います。


〇 膠量
膠の量が記載されているものであれば、その割合を参考にできます。

膠量が少ない
筆のおりが良い(筆運びが軽い)、黒味が強い
にじみ・ぼかしの表現がしづらい、淡墨の色が冴えない

膠量が多い
にじみ・ぼかしがよくでる、淡墨の色が冴える
黒味が弱い、筆運びが重い

特に墨運堂さんは膠量を示すシールを貼られているので、わかりやすい。
煤100に対しての量で「膠60」が平均、そこから50、45と低くなるほど膠量の少ない墨です。

「にじませたりぼかしたりしない、ただただ強い黒がほしい」
「寒い時に筆が固まるようなことは避けたい」
そんな方は膠量の少ない墨を選んでみるのが肝要かと思います。


〇 色味
大別して青か茶色か。
原料の煤の色味だったり、添加した色味であったりしまして
特に「青墨」は顔料の添加でかなり青いものがあります。
光沢のありなしも含め、好みの色を選ぶで良いかと。
茶色い煤が一般的には微粒子ですので、平たく考えれば膠量が多くなる傾向にあるかと思います。


〇 ツヤ
松煙墨は粒子の大きさが不均等なため乱反射しツヤなしの黒に、
油煙墨は均等な微粒子で正反射し光沢のある黒になるといわれます。
しかしながら松煙・油煙以外の改良煤(第3のビールみたい)もありますし、混合している場合もある。
そこに膠量や練り方も関わってくるので、原料表記のみではなかなかわからないところです。



そんなこんなを踏まえてネットで墨を探すならば、
こちらのサイトがおすすめです。

書遊 Online

見やすくて面白いのは日本製墨さんが運営する「書遊」。
固形墨だけでなく書道関係が綺麗に紹介されています。


メーカーさんで選ぶならば
堂々たる老舗の古梅園さんか墨運堂さんです。
どちらもWebサイトはありますが、なかなか渋くて。
まぁもう店に来なさい!それがいちばん!なのでしょう。
(前職の業界研修でどちらのお店も研修・見学させてくださっていたので、すごく丁寧に相談にのってくださるのだと思います。)

墨運堂さんはWebカタログがあるのでご参考までに。

カタログの22~26ページ「大和雅墨」シリーズは、色味も載っています。


ネット通販や小売店での購入はメーカーがはっきり表記されていないものがあります。
メーカー違いで商品名が同じことなどありますので、できるだけ明記されているものをお買い求め下さい。






こんなところでしょうか。

私が画材屋さんで墨を求めたときは、ここまで考えずにふらふら買ったので「色」と「価格」の2点だけでした。
あと商品名。(あまり可愛らしいのは気恥ずかしい)

それで買ったのが墨運堂さんの「青雲」です。

既に茶系の油煙墨を持っていたので青系を、と求めましたら商品説明に「作画用」「大作向き」と。
それでお値段が店頭で4,800円。
5,000円くらいまではOKだったため購入。

と、こんな感じです。
使ってみて特に不具合はありませんし、油煙墨の古梅園「梅花墨」との違いも明確で面白いです。


ただ、店頭で見ても実際使うまでわからなかったのは「におい」ですね。
可能ならば見本を箱から出してもらうと良いかもしれません。
青雲はかなり香り高く、嫌なにおいではありませんが「お」と思いながら使っています。
においに敏感な方は、香料の原料など問い合わせるなりなんなりして、香りの具合を事前に確認するが無難と思います。

余談ですが、書の世界は沼が深い(価格も桁が違う)ので「墨だけ」と思って踏み入れると…
私は筆や紙、硯・墨は、できるだけ書のエリアに踏み込まないよう、波打ち際を逃げ腰でぱしゃぱしゃ遊ぶようにうろついています。





さて、独断と偏見ですすめて参りました。
固形墨購入のとっかかりになりましたら幸いです。
考えても使ってみないことにはわかりませんので、深く考えずにふらっと出会って、愛着湧くのが幸せなような気もします。(お見合い結婚感)


最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
それではまた次回の投稿で。



おまけ

「しれば迷いしなければ迷わぬ恋の道」 土方歳三


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巳白
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