稲妻の実験

　私は雨に濡れた窓から外を眺めていた。都心部の喧騒が、豪雨の轟音に飲み込まれていく。突如、一筋の稲妻が空を裂いた。

　その瞬間、目の前の景色が歪んだ。建物が溶け、人々が消え、そして―私は見知らぬ場所に立っていた。周囲には見たこともない植物が生い茂り、紫色の空には三つの月が浮かんでいる。
　ここは別の惑星なのか。それとも未来か過去の地球なのか。混乱する私の耳に、どこからともなく声が響いた。

「実験は成功しました。あなたは選ばれし観測者です」

　その言葉の意味を理解する間もなく、再び稲妻が走った。目を開けると、元の部屋に戻っていた。外では相変わらず雨が降り続いている。夢だったのか。そう思った矢先、テレビから流れるニュースに私は凍りついた。

「各地で発生している異常気象は、並行世界との干渉が原因であることが判明——」

　アナウンサーの声が部屋に響く中、私の頭の中では先ほどの『声』が繰り返されていた。私は、何かとてつもないものの一部になってしまったのかもしれない。そして、これは始まりに過ぎないのだと直感した。

　窓の外で、また一筋の稲妻が光った。