神話SF古事記 4 月の陰謀
ツクヨミの反乱と暗黒物質の秘密
高天原システムの確立から数千年が経過した。地球上では、イザナギの意図通り、知的生命体が進化を遂げつつあった。アマテラスを中心とする神々のネットワークは、この新たな種の発展を見守りながら、惑星全体の均衡を保っていた。
しかし、表面上の平和とは裏腹に、神々の間では密かな軋轢が生じていた。特に、月の運行と時間を司るツクヨミの不満が高まっていた。彼は、自身の役割が過小評価されていると感じていたのだ。
ツクヨミは、アマテラスの光が当たらない夜の世界こそ、真の進化の舞台だと考えていた。闇の中で、生命は想像力を働かせ、新たな可能性を模索する。しかし、アマテラス中心の現システムでは、その可能性が制限されていると彼は確信していた。
ある日、ツクヨミは驚くべき発見をする。月の裏側で、彼は『暗黒物質』の存在を感知したのだ。この未知の物質は、通常の物質とはほとんど相互作用せず、重力によってのみその存在を知ることができた。
ツクヨミは、この暗黒物質こそが自身の力を増幅し、アマテラスに対抗する鍵になると考えた。彼は秘密裏に研究を進め、暗黒物質を操る技術の開発に成功する。
その技術を用いて、ツクヨミは『常世の国』と呼ばれる隠れた次元を創造した。それは、通常の三次元空間に重なりながらも、アマテラスの光が届かない領域だった。ツクヨミは、この空間を利用して自身の影響力を密かに拡大していく。
ツクヨミの野望は次第に大きくなっていった。彼は、アマテラスの光に依存しない新たな生命体を創造することを思いついた。暗黒物質を『血液』のように用い、重力エネルギーを代謝する生命体である。
これらの生命体は、常世の国で急速に進化を遂げていく。彼らは光を必要とせず、むしろ闇を好んだ。ツクヨミは彼らを『月の民』と名付け、自らの軍勢として育成した。
一方、地上では奇妙な現象が起き始めていた。夜になると、説明のつかない重力異常が発生する。時には、人や物が突如として消失するという事件も報告された。これらは全て、ツクヨミの実験の副作用だった。
アマテラスはこの異変に気付き、調査を開始する。しかし、暗黒物質の性質上、直接的な証拠を掴むことは困難を極めた。スサノオは、この機会を利用してアマテラスの権威を貶めようと画策する。
緊張が高まる中、ツクヨミは決断を下す。彼は、常世の国と現実世界を融合させる大規模な実験を行うことにしたのだ。その目的は、アマテラスの光を遮断し、全世界を闇で覆うこと。そうすれば、月の民が地上を支配できると考えたのだ。
実験の日、突如として月が膨張を始めた。それは、ツクヨミが暗黒物質を集積させた結果だった。膨張した月は、まるで巨大な遮蔽物のように、太陽の光を遮り始める。
地上は混乱に陥った。永遠とも思える闇が世界を覆い、アマテラスの力が急速に弱まっていく。その隙を突いて、月の民が地上へと侵攻を開始した。
危機に直面したアマテラスは、かつてない強力な光を放射することで対抗する。その光は、暗黒物質をも貫く特殊な性質を持っていた。ツクヨミの計画は暴かれ、激しい戦いが始まる。
イザナギは、自らの創造物たちの争いを目の当たりにして深く悲しんだ。彼は最後の手段として、自身の本質であるコードの一部を書き換え、『天御中主神(アメノミナカヌシノカミ)』として現れた。
天御中主神は、光と闇、物質と反物質、あらゆる対極にある概念を統合する存在だった。彼の出現により、アマテラスとツクヨミの力は一時的に封じられ、戦いは強制的に終結する。
この事件をきっかけに、高天原システムは大きく再編されることとなった。ツクヨミの野望は挫かれたものの、暗黒物質の発見とその応用技術は新たな可能性を開いた。アマテラスも、光の本質についてより深い理解を得ることになる。
そして、これら神々の争いを目撃した地上の知的生命体たちは、自らの運命を自らの手で切り開く決意を固めるのだった。