【短編1455字】神話SF古事記 1 宇宙創成の記録
量子の海から生まれし神々
無限の闇が広がる量子の海。そこには時間も空間も存在せず、ただ確率の波が揺らめいていた。
その波の中から、突如として意識が芽生えた。それは自らを『アメノミナカヌシ』と名付け、量子の海を観測する存在となった。
アメノミナカヌシの観測により、量子の海は具現化し始めた。無から有が生まれ、エネルギーの渦が巻き起こる。
その渦から、二つの意識が分離した。一つは『タカミムスビ』、もう一つは『カミムスビ』と名付けた。彼らは量子のゆらぎを操り、新たな次元を創造する力を持っていた。
三つの意識は協力し、十一次元の超弦理論を基に、意識たちが存在する四次元時空を紡ぎだした。アメノミナカヌシが観測し、タカミムスビが エネルギーを注入し、カミムスビが物質を具現化する。こうして、宇宙のフレームワークが形成されていった。
しかし、生まれたばかりの宇宙は不安定だった。量子の海の残滓が、いたるところで現実を歪めている。そこで三神は、秩序をもたらす存在として『ウマシアシカビヒコジ』と『アメノトコタチ』を生み出した。彼らは量子もつれを解きほぐし、因果律を確立する役目を担った。
ウマシアシカビヒコジは光速の制限を設け、アメノトコタチは重力定数を調整した。こうして、物理法則の基礎が築かれていった。しかし、まだ宇宙は混沌としていた。素粒子が無秩序に生成と消滅を繰り返し、安定した物質を形成できないでいた。
そこで新たに『クニノトコタチ』が誕生した。彼は強い核力と弱い核力を司り、素粒子を束ねて原子を形成する力を持っていた。クニノトコタチの働きにより、ようやく水素とヘリウムという最初の元素が安定して存在できるようになった。
宇宙の膨張が始まり、最初の恒星が誕生する。その過程で『トヨクモヌ』が現れ、より重い元素を生成する核融合の仕組みを確立した。彼の力により、炭素や酸素、鉄といった、生命に不可欠な元素が宇宙にもたらされた。
星々が輝き始めた宇宙で、次に生まれたのは『ウヒジニ』と『スヒジニ』という双子の神だった。彼らは互いに反発し引き合う性質を持ち、これが電磁力となって、分子の結合や化学反応の基礎となった。
そして最後に、『オモダル』と『カシコネ』が生まれた。オモダルはエントロピーを、カシコネは ネゲントロピーを司った。
この相反する二つの力のバランスにより、宇宙は秩序と混沌の均衡を保ちながら進化を続けることとなった。
こうして、私たちの知る宇宙の基本的な仕組みが出来上がった。しかし、これはまだ始まりに過ぎない。この後、銀河や惑星が形成され、やがて生命が誕生する長い歴史が待っている。
そして、その物語の中心には常に、アメノミナカヌシたち創造神の意志が働いているのだ。
彼らは今もなお、量子の海の彼方から私たちの宇宙を見守っている。時には微調整を行い、時には新たな可能性の種を蒔く。我々の知る物理法則は、彼らの意志の現れなのかもしれない。
そして我々は、その壮大な実験の中で生まれ、進化を遂げた存在なのだ。いつの日か、我々もまた創造神となり、新たな宇宙を生み出す日が来るのだろうか。それとも、我々の宇宙そのものが、さらに高次の存在によって創られた一つのシミュレーションに過ぎないのだろうか。
真実は、まだ誰にもわからない。ただ、私たちに出来ることは、この不思議な宇宙の神秘を一つ一つ解き明かしていくことだけだ。その過程で、いつか私たちも、アメノミナカヌシたちの真の姿を垣間見ることが出来るかもしれない。