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ブロンプトンとロードバイクの二極化

最近の自転車道楽に於ける市場の傾向は、ブロンプトンとロードバイクに二極化しているように見える。そしてどちらも高価だ。現在のブロンプトンは約30万円ぐらいの価格であり、ロードバイクに至っては100万円に達するものも少なくない。自慢ではないが、私にはどちらも買えそうにない。ま、無理して買うほど欲しくはないという事情もあるが。

ブロンプトンとロードバイクは、本来どちらもある用途に特化したような自転車である。ブロンプトンは折り畳みの簡易さとコンパクトさに力点を置いた自転車だし、ロードバイクはそもそもレースに特化した自転車である。どちらも用途は限られているはずである。

それなのに、わが国の市場では、ブロンプトンを筆頭とする折り畳み小径車と、先鋭的なロードバイクが二大勢力となっているというなんだか奇妙な状態になっているのだ。

折り畳み小径車と競技用ロードバイクの中間には、ランドナーやクロスバイクが本来位置しているのだが、ランドナーやクロスバイクはこんにちの市場の中ではむしろ少数派である。汎用性や安定性が高い設計がなされているにも関わらず、市場の大半はそういうものを求めないという、イビツな構造に
なっているのだ。

ブロンプトンは実際、折り畳みが容易だから、この機能を活かして輪行サイクリングを愉しんでいる人は少なくないと思われるが、それ以上に、自宅の屋内に収納する場合に場所を取らないということで折り畳み機能を活用している人も少なくないはずである。英国製というプレミアも付いている。

ロードバイクは軽量で快速だから(乗り手=エンジンにもよるが)、荷物を持たない日帰りのサイクリングにはそこそこ使えるし、部品グレードを主体とした価格的ヒエラルキアもはっきりしているので、そういうものが欲しい人には所有名誉欲も満たしてくれるだろう。

ランドナーは旅に特化した自転車だが、直進安定性や乗り心地に優れ、もちろん専用設計のバッグを併用することで荷物もかなり持つことができる。しかし現在ランドナーを愛用する人はごく限られている。

ブロンプトンのオーナーが熱心な輪行サイクリストである場合が多いのかどうかは調べてみないと分からないが、ロードバイクのオーナーの大半は、実際には競技に出ることはないサイクリストである。ロードバイクがブームになったときも、レース人口は増えなかったからである。

しかし、ランドナーに乗るサイクリストのほとんどは、旅もしくはサイクリング、または輪行サイクリングを愉しんでいる。この車種本来の使い方をしているということである。

多くのサイクリストの自転車遊びは、競技でも長旅でもなく、ふつうのサイクリングであるが、それに特化した自転車が売れないということにわが国の市場特有の歪みがあるように思われる。

ブロンプトンや先鋭なロードバイクがよく売れることの理由のひとつには、それが特に高価だからということも挙げられるだろう。約30万円もする(その割には仕上げや部品選定に疑問がつくが)英国製の折り畳み自転車をポンと買うことができる人は、それなりに良い企業に勤め、多額のボーナスを貰うことのできる方々であると思われる。若いうちに集合住宅を手に入れ、大都市部に住んで四輪車を不要とするライフスタイルなのかもしれない。そして、高価なロードバイクに乗ることのできる層もこれに近いだろう。

昔は、自転車を道楽とする人々は一種の物好きであった。自転車がステイタスになることもなく、お洒落な相棒であることもなかった。言葉は悪いが、一種の馬鹿者が自転車に乗っていたのである。私は古い人間なので、そういう時代を見てきた。英国製の折り畳み自転車や欧米のロードバイクを皆が皆欲しがるような時代が来るとは思わなかったが、実際にはそうなった。

物事は変化する。そうとしか言いようがない。

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白鳥和也/自転車文学研究室
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