『死は存在しない』を読んだ
久しぶりに引き込まれる本を読んだ。田坂広志著『死は存在しない 最先端量子科学が示す新たな仮説』(光文社新書)である。
ともかく読み始めたら止まらない。あれよあれよという間に2時間もしないうちに読了してしまった。
大枠の話をすれば、科学と宗教のあいだの亀裂に橋を架けて、多次元的世界の実証性を検証するような筆致で書かれているが、著者の基本的立場は科学者である。そこのところが面白い。
本書の核心を成す「ゼロ・ポイント・フィールド」については、概念的に説明されているだけであるが、その分、私のような文系の人間にもとっつきがよく、量子論を詳しく知らなくても充分に本書の内容に入っていける。
特筆すべきは、著者が科学的立場に立つと言いながら、「予知」や「以心伝心」、「シンクロニシティ」などのいわゆるサイキックな体験に関して、自分の経験も踏まえながら否定していないことである。
その体験談の中のひとつが、1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号の事故の予知であるが、これには私もドキッとした。
というのも、私も2003年のコロンビア号の空中分解に関しても、そのしばらく前に「このシャトルは帰って来ない」という直観があり、実際にはそのミッションの機体は無事生還したのだが、次のミッションで飛んだコロンビア号が空中分解の事故に遭ったのだった。
そういうわけで、この本自体が私にとってはシンクロニシティを感じるような内容であり、もうひとつの魅力は、スタニスワフ・レムの『ソラリス』が引かれていたことであった。
『ソラリス』の「記憶や思念が現実化する」というような発想自体、きわめて多次元的なエネルギー感に満ちているが、著者はそれを死後の世界における肉親との「再会」に敷衍して語っている。
アーサー・C・クラークも引用されているあたり、SFファンにとってもこの本は示唆に富んでいる。地球上と異なる世界をどう理解するかという観点も散りばめられているように思う。
「ゼロ・ポイント・フィールド」に於ける自我のあり方も、量子論的な切り口とともに宗教的な言説との比較もなされているようで、実に興味深い。
この新書はたった税込み1012円だが、人によっては人生を変えるくらいのエネルギー感に満ちている。
多次元的世界を科学的立場からひもとこうとした文脈には、「それは死期が迫って活動能力の低下したせん妄状態の脳が見せた幻覚」みたいな寒々しい記述がしばしば見られるが、この本はそんなことはない。
科学的立場からも、宗教的精神性とほとんど変わらないポジティブな記述が可能であることをよく示してくれている。繰り返しになるが、この本がたった1000円ほどであることは、ひとつの事件かもしれない。
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