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歌曲『初恋』

歌曲の『初恋』は、石川啄木の詩、越谷達之助の作曲による。

自分が若かった頃、当時すでに老齢に達していた男性の声楽家がこの曲を歌うのを聴いて、ひどく感動した。

あれからもう30年あまりが経過し、63歳となった私は老境の入り口に立っている。

この曲は切ない初恋の思いを歌っているが、若者のために書かれた歌のような気がしない。

むしろ齢をとらないと分からないような感興に満ちていると言えるだろう。

この歌に描かれる「初恋」は、そのように遠くて深い。青春というものが過ぎ去らないと見えてこない風景がそこにある。

一昨日だったか、数日間さわっていなかったアルトリコーダーを手にして、この曲を吹いてみた。

声楽家のように歌が歌えればなあと思うが、ないものねだりしても仕方がないので、リコーダーで歌うほかない。

そしてふと気づく。この歌は、死という人生の終わりの向こう側から、過ぎ去った生を振り返っているようなニュアンスにも満ちているのだということに。


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