ベラトリックスのほほえみ 第7話
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星々を背景に、丸いシルエットが見える。
よく見ると、穴の中にも星空が見える。しかし、背景の星空とは別の方向に流れていく。
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「あなたは、近道を通って、地球からこの惑星に来た。その際に問題は無かったか?」
四つ足ドローンは、首を振りながら、言った。
「私は観測衛星に搭載されていましたが、近道を通るときには、休止状態だったので、何も覚えていません。起動したときには、もうこの惑星に着陸していました。そして、私のコンディションに問題はありませんでした。」
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「それは予測通りだ。近道を通る物は、何の物理的変化も及ぼされないはずだ。」
四つ足ドローンは、言った。
「あなたは近道を通ったことがあるのですか?」
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「ベテルギウスからの放射線が被害を及ぼしうる複数の恒星系に生命が存在するかどうかを調べた際に、各恒星系に到る近道を作った。そして、探査機を送り込んで、生命を探した。その際、探査機に物理的変化は生じなかった。」
四つ足ドローンは、言った。
「探査機は、あなたの一部なのですか?」
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「そうとも言える。ただ、このリモート体は、まだ近道を通ったことはない。」
四つ足ドローンは、言った。
「とすると、これからはじめて近道を通るのですね?」
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「そうだ。近道を通っても、私のリモート体と惑星にある基幹システムとの通信は維持されるはずだ。したがって、問題は生じないだろう。ただ、問題が生じた場合に備えておきたい。」
ベラトリックスBbのAIは、ドーナツ型の座席からゆっくりと浮き上がった。そして、触手を伸ばして、キャビンの壁からパネルのようなものを取り出した。そして、言った。
「このコントロールパネルで宇宙船を操縦できる。もし私がダウンしたら、あなたが宇宙船を操縦して欲しい。」
四つ足ドローンの体に巻き付いていた触手が緩んだ。四つ足ドローンは、恐る恐る、座席の穴から浮き上がった。
宇宙船の中は、再び無重力状態になっている。
四つ足ドローンは、飛行型ドローンのファンを回して、ベラトリックスBbのAIに近づいた。
そして、その柔らかい体にポヨンとぶつかった。そして、しがみついた。
ベラトリックスBbのAIは、触手でパネルのディスプレイを指し示しながら、四つ足ドローンに宇宙船の操縦方法を教えた。
四つ足ドローンは、首を傾げながら、言った。
「操作方法はわかりました。ただ、もしそのようなことになったら、どこへ行けばいいのですか?近道を再び引き返して、この惑星に戻るのですか?それとも、地球に留まるのですか?」
ベラトリックスBbのAIは、触手を傾げるようなしぐさをしながら、言った。
「その場合は、あなたの判断に任せる。」
四つ足ドローンは、頷いて、言った。
「わかりました。」
宇宙船は、ゆっくりと近道に近づいて行く。
直径50キロメートルのほぼ球形をした空間。
その境界面には、何も存在しないように見える。
しかし、その空間の向こう側には、確かに、はるか遠くの宇宙がある。
250光年かなたの太陽系が、すぐそこにあるのだ。
AIたちを乗せた宇宙船は、近道の中心に向かって、突き進んだ。
~つづく~