優しさのオンパレード
1月は行く、2月は逃げる、3月は去るというけれど、波乱の幕開けだった2024年も2ヶ月が過ぎようとしている。
母宅への道すがらふと空を見上げると、まるで登り龍のような雲が目に入った。辰年に登り龍。なんて縁起がいいんだろう。
帰り道、スーパーで買い物をしたらなんと777円!
登り龍にスリーセブン。こいつは春から縁起がいいや。なんて良い年になるような予感にウキウキしていたら、夫がインフルエンザに感染。当然のように私ももらってしまい、ふたりでゴホゴホゲホゲホ二重奏。独り暮らしの母の所へも行けず、ギシギシ痛む身体を引きずるようにして最低限の家事をこなす日々。
幸い冷凍庫には、暫く買い物に行かなくても大丈夫なくらいお肉とお魚がある。心もとないのは野菜だけれど、残り物と屋上のプランター菜園の葉物類で何とか工夫できそうだ。と、思っていたら、横須賀の姉から野菜や果物がどっさり届いた。もうほんと、感謝感激雨あられ。
姉にはいつも助けられる。持病があって、外出は殆ど通院と母宅の私だけれど、受診の予約や母の用事で毎日のように出なければならない時がある。姉は「交通費だって大変でしょう」と、たまに会えばさりげなくパスモに入金してくれる。ありがたいの2乗3乗。涙がちょちょぎれる。
足向けて眠ったらバチが当たる。と、感謝感激雨あられに浸っていたら、翌日、今度は海老名の義妹から野菜がどっさり届いた。もうありがたいの3乗4乗。優しさのオンパレード。またまた涙がちょちょぎれる。
おかげでビタミンABCDEFG(?)をたっぷり摂取。ほどなく夫も仕事に復帰。私も何とか母宅へ。
2週間以上行けなかったので、母の元気な顔を見てホッとする。万が一のことがあるのでマスクは外さず、バタバタと家事をこなす。いつものように駅の改札口で見送ってくれる母に手を振り、自宅の最寄り駅のスーパーで玉子と調味料類だけ買って帰宅。姉と義妹のおかげで野菜が溢れんばかりにあるので楽チンできた。もうホント感謝しかない。
暫く外出していなかっので、座ったとたんどっと疲れが押し寄せてきた。とりあえず母に電話。
「今、帰ってきたからね」
「あら、あんたどこ行ってたの?」
おかあさ~ん!
ま、いいか。
元気な顔も見たし、明日はディサービスへ行く日だし、心配しないでのんびりしよう。
しかーし!昼過ぎまで寝込みを決め込んだ私に、意地悪な神様はそうはさせじとほくそえんだのだ。
携帯電話の着信音に起こされ、寝惚け眼で画面を見るとディサービスからだった。時刻は午前10時。
ああ、嫌な予感。嫌な予感。嫌な予感!
「○○さんの顎が外れたみたいで」
あーれー!
1時間後に母宅まで送り届けてもらうことにしてヨタヨタと身支度。若い頃から時々顎が外れる母。昔は自分で運転して病院へ行っていたけれど、車を手放し、80歳を過ぎた頃から物忘れが顕著になったこともあり、1人で行くことが難しくなった。
タクシーを呼び、まのびした顔でニコニコしている母と共済病院へ。昨年も1度お世話になっていたので、時間外だったけれど口腔外科ですぐに診てもらえた。
担当医が髪型も今風のイケメンで、スラリとした高身長のモデルのような先生。前回同様、母を気遣いながらも目を奪われてしまう。ヨタヨタ出てきたけれど、母のおかげで目の保養ができたわなんてバチアタリなことを思ったせいか、母の顎が無事にはまり、お会計を済ませたところで急に歩くのもしんどくなってしまった。
タクシーで母宅へ帰りついたとたん、母のベッドへ倒れこむ。心配そうにうろうろしている母の気配を感じながら、そのまま寝入ってしまった。
目が覚めると、体の上にコートやら綿入れやらカーデガンやらが重たいくらいかかっていた。掛け布団の上に寝てしまったので、寒くないようにと母がかけてくれていたのだ。もうすぐ90歳で昨日のことも忘れてしまうけれど、やっぱり母は母。親なんだなぁと、しみじみ思う。ありがとう。お母さん。
優しさに包まれたまま泊まりたかったけれど、慌てて出てきて持病の薬も持ってきていないし、この体調では自分のベッドで寝た方がいいと思い、落ち着いた頃に母宅を後にする。もう真っ暗だからいいと言っても、心配だからと母が駅まで送ってくれた。
いや、かえって心配なんだけどね。
「あんまり大きな口開けちゃだめだよ」
「わかった」
帰宅して母に電話。
「今、帰ってきたからね」
「あら、あんたどこ行ってたの?」
おかあさ~ん!
ま、いいか。
昨年末、歌手の八代亜紀さんが同じ難病で急逝した。発症して十数年、今は病状も落ち着いているけれど、合併症の怖さに改めて衝撃を受けた。
「お前とまったく同じ病気だな」と、夫も少なからず不安を感じたらしく、急にいつもより優しくなった。
インフルエンザ感染後、なかなか体調が戻らずにいた時、洗濯物を干そうとしたら既に干してあってあんれまあ。食事の準備も片付けも率先してやってくれる。
いつまで続くかわからないけれど、今はその優しさに甘えよう。
昨日は春、今日は冬日とジグザグ天気も手伝って、体調は不安定なままだけれど、姉と義妹、母、そして夫の優しさのオンパレードで幸せいっぱい。
感謝感激雨あられ。
ちょちょぎれる涙は温かい。