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踊るエミネム人形(後)

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(続き).

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それから10分後、美容院に入って手帳をヒラヒラさせているおれがいた。

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後からわかった事だが、これは一時期流行した一種のネズミ講のようなもので、商品が売れた場合、1500円の内訳は(500円→おれ、500円→ボス、500円→上納)というシステムになっている。ランクを上げていくと最終的には支店長(ボス)になり、事務所で、ぼーっとしていてもネズ、いやエンジェル達が必死に売り歩いてくれるシステムのようだ。しかも訪問販売の規制逃れの為か店舗のみに売り歩けとのお達しが。

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そんなこんなで一日が過ぎ、手帳が1個売れたので別室でボスから500円を現金で渡された。、、500円。

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次の日

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. 「えー、今日はね、これ。これを売ってきて欲しいんだよね、えー、これ。よく切れる包丁!!はい、1000円!!」

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二日目は包丁だった。

1個も売れず一日の報酬はゼロ。そうゼロ。もう心は完全に死んでいた。

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自分の利益が一日で8000円、つまり売り上げが24000円以上だった者だけが、事務所の真ん中に置いてある「幸せのベル」を鳴らす事が出来る。だから帰ってきたら1周まわったりなんかして嬉しそうに「チリリン」と鳴らす人達がいたりして。とんでもない会社にいる事にようやく気付く。

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三日目の商品は「踊るエミネム人形」だった。よくある踊るサンタクロースをイジっただけの粗末な代物で、ラッパーの格好をした人形の胸のボタンを押すと踊りながらエミネムが歌い出す。トホホ。売れるか、こんなもん。

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流山のある町に降り立ったおれは片手にエミネム人形を持ち町工場に入っていった。

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溶接なんかをしている人達に

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「これ、ボタン押すと踊りながら歌うんですよ。ホラ」

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工場内にシラケた空気が漂う。そりゃそうだ。収穫なし。次はどこに入ろうか。ここにしよう。

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エミネム片手に扉を開けるとデッカイ書道の文字が目に入った。それと革のソファー、おじいちゃんが肌着で座っていて、腕にはすごい刺青が、、、!!!あ、ここヤバイ。ヤバイ事務所じゃん。

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「なんだー、お前」

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おじいちゃんが、物珍しそうに近づいてくる、いやー、来ないで。その時

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「なんだ!!お前、そんなもんいるか!!さっさと出てけゴラッ!!」

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おじいちゃんの近くにいた大柄の男に思いっきり怒鳴られた。

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「すいません!」

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当たり前だが、心が完全に折れた。そのまま公園に行きベンチに寝っ転がって時間まで寝た。

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時間になると会社に荷物を返し、2度と来ることはない事務所を後にした、、。

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皆さま、スーツ姿のガラガラがあなたのお店に入ってきたら、優しくしてあげて下さい。


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只野 漠
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