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虫のお医者さんの系譜学(随時更新)

個人的なメモとして、虫のお医者さんの作品にはどのようなものがあるかをまとめてみようと思う。

ここで扱うのは、虫の治療を扱った作品群に限定する。

古くは、アリストテレスの著作の中で蜜蜂の病気について述べられており、Georgicsという詩の中で、ローマの詩人バージル(後述、ヴェルギリウスのことである)が、「蜜蜂にも人と同じ不幸が巡ってきて、重い病に悩まされる」と歌っている(福原敏彦『昆虫病理学』p.1)。つまり、虫の病が認知されていたのはかなり昔ということである。そのためこの論考にはアリストテレスの時代(もっと言えば紀元前)から1928年に至るまでの調査の空白期間が存在しており、従って随時更新が必要であり、昆虫の病気を治療する作品の中に未調査の領域が存在していることを認めざるを得ない。また、私が映像作品には詳しくないため、アニメなどの描写については調査しておらず(あるかもしれないが)、それについても調査が出来次第、ここに追記していく形になると思われる。

『農耕詩』ヴェルギリウス(紀元前29年頃?)

冒頭に書いたバージルの詩で、これはヴェルギリウスのことである。
『農耕詩』の251-280から引用する。

だが、蜜蜂の場合も人間と同様、生きていくうちに不慮の禍いに
襲われることがあるから、時には彼らが重い病いに――それは、
紛うかたなき徴候しるしによって知ることができる――冒されることもあるだろう。
病気になるや、ただちに彼らは体の色が変わり、ひどく痩せて、
その容貌が醜くなる。やがて彼らは仲間の死骸を、
戸口から外へ運び出し、悲しみの葬列をつくる。
あるいはまた、飢えのために気力を失い、寒気のために感覚が萎えて、
巣の入口のところに脚を引っかけ、ぶら下がっている者がある、
かと思うと、全員が戸を閉めた家の中で、じっとしていたりする。
かかる時には、常よりも鈍い、長く響くうなりが聞こえる。
それは、涼しい南風が、時おり森の中でつぶやくのに似ている、
波立つ海が、返す波にざわめくのに似ている、
扉を閉めた竈の中で、火が荒々しく燃えさかるのに似ている。
そのときは、わたしは勧告したい。香りのよい楓脂香を焚き、
葦の管で密を送り込んで、まず、病んでいる彼らを元気づけ、
慣れた食物を摂るように仕向けてやれ、干した薔薇の葉とを
混ぜ合わせたもの、あるいは、強火で煮つめた葡萄液か、
プシティアの葡萄で作った干葡萄の酒に、アテナイの麝香草と、
匂いの強い千振を加えたものを与えるもよい。
なお、牧場に行くと、農夫らがアメルルスと呼んでいる花がある。
たやすくみつかる草花だ。
それは、一つの株から大きく葉を茂らせており、
花の芯は金色だが、それをぎっしりと取り巻いている花びらは
暗い菫色で、かすかに赤みがさしている。
この花はしばしば花輪に編まれて、神々の祭壇に飾られる。
その味は口に苦く、羊飼いたちは、家畜が草を食い尽した谷や、
曲りくねったメラ川の近くでこれを掘り集める。
この花の根を、香りよき酒で煮て、
籠いっぱいに入れ、餌として巣の入り口に置くがよい。

(『ウェルギリウス 牧歌・農耕詩』河津千代訳 未来社 p.347-350)

少し長くなったが、この通り、農耕詩には、蜜蜂の病気とその治療方法が記載されていた。
ここでいうアメルルスという花は、注によれば、浜紫苑ハマシオン、菊科の二年生草本のことで、茎の高さは約90㌢、秋に嫁菜に似た淡紫色の花をつける。古代の作家たちが蜜蜂の病気の特効薬と書いているものであるが、それを最初に言い出したのはヴェルギリウスであるらしい、ということだそうだ。
蟲医的な発想は紀元前にすでにあったのである。

『ドリトル先生月へいく』ヒュー・ロフティング作、井伏鱒二訳(1928年)

多分恐らく最古の蟲医もの。虫を治療する観念が出てきたのはこの作品が一番最初ぐらいではないだろうかと思われるが、前述のように未調査の領域があるため、慎重に記述している。

ポケモンのほぼ全シリーズ(1996年〜)

虫ポケモンのポケモンセンターでの回復は、虫治療の一部と見ても良いだろう。
中沢新一の著書『ポケモンの神話学』などに、ポケモン集めは虫取り(本文中ではザリガニ取りなど)、虫集め、虫遊びなどの類型があるという説がある。もちろん、この考えからいけばどのポケモンの回復も虫治療的である。

福岡市のpdf(2013年)(平成25年 田隈保育所 作成)

https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/74133/1/musinooisyasan.pdf?20240315165623

平成25年に保育所でできたPDFがネットに転がっていたものと思われる。

聴診器を使う、湿布をするなど、虫を人間に見立てた、教材らしい発想の作品。一応発想があったということで系譜に加えた。


『虫医』香蕉騎士(2018年?)


中国語で書かれた虫医の作品。中国の百度にも項目がある。虫医システムを身につけた医師が虫治療をしたりする話らしい。

「虫は人を傷つけることもできるし、人を救うこともできる。徐子陵は虫医システムを得て、現在世界で唯一無二の虫医になった。

心臓を治せる心蚕、中毒を治せる白蛭があります。リウマチを治療できる鍼灸蜂、神経を治療できる霊感虫があります。そして燃える火渺、自爆できるカブトムシ、麻酔できる..(機械翻訳)」


『虫医』かんざきももた(2018〜2019年、公表2022年頃)

https://galleria.emotionflow.com/s/110435/618913.html

虫を治療するベテランと新人の漫画。人間よりも大きい虫を治療する世界観になっている。私より早くこうした虫医者像を持っていた人がいたことに驚いた。


Tales of the Insect Surgery, W. G. Mead(2019年7月1日)

虫の外科手術が出てくる幼児向けの英語の絵本。2019年に書かれている。


『蟲医シリーズ』(2022年〜)

言わずもがな。我らが蟲医シリーズ。虫のお医者さんの概念をSFにした作品。言語実験なども出てくる。私の作品。

『虫のお医者さん』藤乃花(2024年10月)

https://ncode.syosetu.com/n9018jp/

AIを発明し、虫治療に役立てるという発想が出てくる。虫医をトーマス・エジソンのような発明と考えているが、これについては異論もあるだろう。とはいえ、虫のお医者さんの発想として、最近出てきたにしてはよく観察している。

今後も、蟲医的な作品が出てきたら更新していきたい。

更新履歴:

2024/11/24 ヴェルギリウス『農耕詩』の項目を追加。
2024/10/17 ポケモン、なろうの藤乃花さんの作品を追加。
2024/9/22 最初の原稿が完成。

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