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劇場版仮面ライダードライブ/サプライズ・フューチャーが好きな理由。

<STORY>
刑事で仮面ライダーの泊進之介は、意思を持つ変身ベルトのベルトさんと共に機械生命体ロイミュードと戦っていた。
ある日突然、自分を「未来から来た泊進之介の息子」と名乗る青年が現れて、ロイミュードに支配された最悪の未来のことを伝えられる。
そしてベルトさんこそ悪の根源であると——。

■内容


『仮面ライダードライブ/サプライズフューチャー』は、シンプルに面白い映画だ。
それは私が特撮やヒーロー作品が好きだから、というのもあるが、物語の構造的に"面白くなるように作られた"作品だからだと思う。
この作品を面白いと感じるのには明確な理由が3つある。

・ジャンル映画的な"物語の型"を利用した展開自体の強さ
・「仮面ライダードライブ」という作品が描いてきたテーマに沿った主人公への課題の巧さ
・物語の構造とキャラクターの役割を呼応させて描いた構成力

もちろん映画はあらすじだけではなく俳優陣の演技や特撮・CGを活用した映像表現、キャラクターの魅力などが複雑に絡み合って表現される集団芸術だと思うが、ここではその根本にある"物語"の強さにフォーカスしていきたい。

・ジャンル映画的な"物語の型"を利用した展開自体の強さ

本作は冒頭の5分程度でTVシリーズからの設定の説明と、本作で解決すべき下記の3つの問題が提示される。

-課題…新たな敵ダークドライブの撃退
-謎…未来からきたという主人公の息子エイジの正体/エイジの語る内容の真偽
-障壁…意思をもつ変身ベルト"ベルトさん"の暴走

最初の5分のうちにこの映画が描くべき結末(ダークドライブを倒せるのか/エイジは本当に主人公の息子なのか/ベルトさんの暴走を治せるのか)を
明かすことで、観客はその問題のみに集中して観ることができるようになっている。
これは例えば「操縦不能になった飛行機を無事に着陸させられるのか」といった乗り物パニック映画や、「人気のない別荘で何者かに襲われた若者たちは無事に脱出できるのか」といったジャンル映画によくある物語の型の一種だ。
これにより、物語は常に前に進む必要が生まれるため、推進力を失わずに展開していくことができる。

・「仮面ライダードライブ」という作品が描いてきたテーマに沿った主人公への課題の巧さ

『仮面ライダードライブ』は、

-車に乗る
-警察官
-意思を持つ変身ベルト

という3つの特徴を持つ仮面ライダーだ。
本作ではこの3つの特徴を下記のように"主人公を追い込む課題"へ反転させて描いている。

-車に乗る ⇒ 車に襲われる(カーチェイス)
-警察官 ⇒  指名手配されて所属組織に追われる
-意思をもつ変身ベルト ⇒ 暴走・故障から変身不可&相棒との離別

これらの課題を解決することで仮面ライダードライブが描いてきた魅力が際立つように設計されている。
また2番目の「指名手配されて所属組織に追われる」部分の具体的解決を後述のヒロインのサブプロットとして振り分けることで、ヒーローものにおける非戦闘員であるヒロインの役割を確保しつつ、主人公への直接的支援につなげている展開は特に素晴らしい。

・物語の構造とキャラクターの役割を呼応させて描いた構成力

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1.三幕構成の時間配分に沿った展開

三幕構成とは物語構成の黄金比のようなもので、ハリウッド映画に多く用いられている。
ひとつの物語を第一幕(設定)/第二幕(葛藤)/第三幕(解決)と大きく3つに分割し、それぞれの幕の間と第二幕の中間(物語の折り返し地点)に転換点を置くことで、物語の展開をサポートする機能を持つ。またそれぞれの幕の時間配分は1:2:1が美しいとされている。

本作は上記の図を見るとわかるように、この三幕構成に沿って作られた作品と言える。
鑑賞時に感じた「シンプルに面白い作品」という印象はおそらくこの三幕構成に沿った物語展開からきていると考える。
まず第一幕のうちに「ベルトさんの暴走」「ダークドライブの登場」「警察からの指名手配」と3つの問題が主人公に課せられ、「ベルトさんを修理しないとロイミュードに支配された最悪の未来になる」という主人公が解決できなかった場合の未来が提示される。

中でも秀逸なのが「ベルトさんの暴走」という問題に対して「ダークドライブの登場」「警察からの指名手配」という問題が全く関係ないバラバラの問題ではなく、ベルトさんを修理するためには無視できない障壁となっており、問題が一直線上に連なっている点だ。
これにより主人公は一つの危機に向かって奔走しなければならず、強力な物語の推進力が生まれている。

2.サブキャラクターの役割とサブプロット

本作はサブキャラクターの使いどころも巧みだ。
物語の進行や盛り上げを手助けするが、解決は主人公に譲るという基本的な役割をこなしながらTVシリーズからのキャラクターのイメージを極力壊さずに、それぞれが美味しいポジションにいる。
(仮面ライダーマッハは戦績という点では不遇だが、要所で見せ場があるためギリギリ許容範囲だと思う。)

ところで物語におけるサブプロットは通常、第二幕の始まりに立ち上がり、第二幕の終わりに収束しメインプロットがクライマックスに向かうための加速装置として使われることが多い。
本作ではそのサブプロットを、ヒロインの霧子が「警察組織論」をテーマに担っている。
また第二幕の前半の「VSダークドライブ/VSブルドーザーロボ」という見せ場を、仮面ライダーマッハ・チェイサーのサブライダー2人が担当し、物語の盛り上げとヒーローものの楽しさを受け持っている。

ここで重要なのは

-主人公が抱える解決すべき問題の一直線上にあること
-一番の問題を解決するのは主人公であること

の2点だ。
本筋と全く関係ない問題やテーマを足し算的に加えたり、主人公が解決すべき問題に直接手助けするわけではなく、第一幕で立ち上がった問題と障壁のうち、障壁を除くことに徹している点と、
霧子が担う「警察組織論」というテーマは、前述の「仮面ライダードライブは警察官」という作品の特徴を描いている点がとてもスマートで素晴らしいと感じた。お手本のようなサブキャラクターとサブプロットの展開の仕方だと思う。

■総評


本作は冒頭でも書いたように「シンプルに面白い」作品だと思う。
かといってすべてが完璧な映画というわけではない。
映像のチープな部分や展開に無理があるところも多く含まれているが、物語の構成とテーマ、キャラクターの役割がしっかりしていることが面白さに直結するということを感じられるとてもスマートな良い作品だ。
また細かいところだが、エイジを信じるにあたり劇中菓子の「ひとやすみるく」を効果的に使っているのもさりげなく巧みだ。(最終的にそれをどうするのかも含めて気が利いている)

『仮面ライダードライブ』を知らないという人は

・主人公は警察官
・変身ベルトが意思を持つ相棒
・敵はロイミュードという機械生命体で人間との生存競争を行っている

の3点を抑えておけば比較的エクスキューズは少なく観れるはずだ。

現在はネットフリックスなどで配信しているので、是非オススメしたい。



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