なぜHERPはリファレンスチェック事業を始めたのか?HERP Trustが描く採用とキャリアの未来
株式会社HERPでオンライン完結型リファレンスチェックツール『HERP Trust』の事業責任者をしている若山です。
HERPは2024年3月に「Parame Recruit」を事業買収し、新たにリファレンスチェック事業を開始しました。
事業運営が安定し、今後さらに体制を強化していくこのタイミングで、なぜHERPがリファレンスチェック事業を始めたのか、そして『HERP Trust』のサービス提供を通じて何を目指しているのかについて書きたいと思います。
HERP Trust とは
『HERP Trust』は、候補者・回答者の体験を損なうことなく、迅速かつ高精度な第三者評価を提供するオンライン完結型リファレンスチェックツールです。
HERPは、デジタル人材を中心とした採用企業と求職者のマッチング機会の創出を目指す中で、マッチングの品質を高めるサービスとして『HERP Trust』を提供開始しました。
従来、リファレンスチェックは企業の採用精度向上を目的としながらも、候補者や回答者に負担を強いるものが一般的でした。
『HERP Trust』は、回答者への「サンクスギフト」提供や、候補者への「キャリアフィードバック」などを通じて、企業だけでなく候補者・回答者にもメリットがあるリファレンスチェックサービスを目指しています。
「信用」を意味する言葉である『Trust』には「個人の信用資産として候補者自身がリファレンスチェックを活用できる社会にしたい」という思いを込めています。
事業を始めた理由は、リファレンスチェックが採用市場にフィットしていないから
結論から述べると、HERPがリファレンスチェック事業に取り組む理由は、現状のリファレンスチェックが現状の採用市場に適合していないと考えているからです。
リファレンスチェックは、企業の選考プロセスの一環で、候補者から同意を得た上で、候補者と過去に一緒に働いた人物(前職の上司、同僚、部下など)から情報を収集する手法です。
選考プロセスのオンライン化による採用ミスマッチリスクの増加や、中途採用比率の向上などの要因から、特にIT企業を中心に導入企業が急速に広まっています。
リファレンスチェックを活用することで、企業は候補者のスキルや人物像をより広範囲に把握し、面接だけでは見えない採用リスクの確認や面接評価の裏付けも可能になります。この点で、企業にとって非常にメリットの大きい手法です。
しかし、候補者にとってはメリットは少なく、回答者は善意でボランティア的に協力しているのが現状です。
国内の採用市場は求人倍率が上昇し続け、特にITエンジニアの求人倍率はITエンジニアが12.8倍と、圧倒的な売り手市場となっています。企業はこの市場変化に対応し、候補者に「選ばれる」採用活動が求められています。
一方で、現状のリファレンスチェックは、候補者・回答者の負担を無視して企業が一方的に情報を得る手法となっており、候補者に「選ばれる」ための採用活動とは言えません。
このような背景から、リファレンスチェックの構造をアップデートし、企業だけでなく候補者・回答者にもメリットがある手法を目指して、『HERP Trust』の提供を始めました。
そもそもリファレンスチェックは必要なのか
候補者や回答者としてリファレンスチェックを経験したことがある方の中には、「リファレンスチェックは本当に必要なのか」と疑問を持つ方もいるかもしれません。私自身も候補者としてリファレンスチェックに対応した際、「久しぶりに連絡を取る方々に、わざわざ時間を割いて自分の転職活動に協力してもらうのは申し訳ない」という気持ちが強く、できれば避けたいと感じていました。
しかし一方で、元上司や同僚からの評価が採用判断に使われることに対しては、前向きな気持ちもありました。過去の転職活動では、面接で自分の経験や考えを十分に伝えきれず、結果として不完全燃焼でお見送りとなってしまったこともありました。そのため、過去に一緒に働いた方々からの率直な意見が自分の転職活動の「武器」になると感じていたのです。
同じように、過去の面接が「準備不足で質問にうまく対応できなかった」「焦って微妙な受け答えをしてしまった」といった苦い思い出として残っている方も多いのではないでしょうか。
もちろん、そういった要素もその人の積み重ねの一部ではありますが、面接での採用判断は限られた時間の中で候補者を“点”として評価する傾向が強く、どうしても面接官の主観が入り込みがちです。そのため、面接官との相性やその場の対応力によって合否が左右されてしまうことも少なくありません。
本来であれば、候補者を“点”ではなく、過去の働きぶりや周囲からの評価といった“面”としてとらえ、より立体的に判断することが本質的ではないでしょうか。
また、採用企業や面接官の立場でも、面接の内容だけでは判断に確信が持てないケースもありますが、周囲からの客観的な評価を確認することで候補者評価の解像度が大きく上がります。
このような背景から、リファレンスチェックという手法自体は採用選考において必要だと考えています。しかし、必要である一方で、その構造が現状では十分に機能していないというのが私の見解です。
リファレンスチェックの根本的な課題は「回答者体験」の低さ
候補者・回答者の視点が無視されていることが構造的な課題であることには触れてきましたが、その根本的な要因は、回答者体験の低さにあると考えています。
HERPが2024年7月に実施した定量調査では、リファレンスチェックの経験がある候補者の50%が「できれば避けたい」と感じており、約30%がリファレンスチェックがあると「志望度が下がる」と回答しています。
志望度が下がる理由として最も多く挙げられているのが、「回答者に対応してもらうのが申し訳ない」という理由です。
私自身も、回答者に対する申し訳なさから、回答に協力いただいた後に個人的にAmazonギフト券をお礼としてお渡ししました。同様に、後日個人的に回答者にお礼を渡している候補者が4割近くいることもわかっています。
候補者は、リファレンスチェックの実施自体をネガティブに感じているのではなく、リファレンスチェックにより回答者に負担がかかることをネガティブに感じていると言えるでしょう。
一方、回答者からも「回答負担が大きい」「リファレンスチェックの目的や質問の意図が不明確」といった不満の声が多く上がっています。
回答者視点の改善要望としては、特に以下の3点が多く挙げられました。
質問数が削減され、回答にかかる時間が短くなること
回答対価として企業から謝礼が支払われること
同じ候補者からの依頼に関しては、回答を使い回しできること
これらの結果から、現状のリファレンスチェックの根本的な課題は、「回答者に善意で協力をお願いする構造であるにもかかわらず、過度に負担を強いていること」にあり、回答者体験の低さが問題であると考えています。
HERP Trust が目指していること
『HERP Trust』は、リファレンスチェックの構造を短期・中長期で変革し、企業にとってのより良い採用ソリューションとして、候補者にとってのキャリア形成の新たな武器として、リファレンスを活用できる状態を目指しています。
短期:「選考手法としてのリファレンスチェック」を改善する
短期的にはリファレンスチェックの基本的な構造を維持しつつ、「回答者体験」を改善し、候補者の心理的負担と回答者の工数的負担を軽減するサービスを目指します。
具体的には、回答者が求める3つの条件(①回答時間の短縮、②企業からの謝礼、③回答の使い回し)に応える仕組みを実装し、違和感なく受け入れられるサービス設計を行います。
まず、企業側の質問設計を洗練し、入力補助などを取り入れて回答しやすさを向上し、回答者の負担を最小限に抑えます。
さらに、第三者の協力を「善意」に依存する構造には限界があると考えています。フラットで公平な協力を求めるためには、対価をお支払いするのが本来あるべき姿であり、「サンクスギフト」として謝礼をお送りできる仕組みを導入しています。
中長期:「選考のためのリファレンスチェック」をなくす
中長期では、「企業の選考プロセスに閉じたリファレンスチェック」から、「日常的に蓄積した周囲の評価を選考プロセスでも活用する」構造への転換を目指します。
現状の「選考のためのリファレンスチェック」には以下の課題があります。
候補者は、現職の上司など、転職活動を知られたくない人には依頼できない
回答者は、採用判断への影響を考慮し、回答内容に慎重になりすぎる
企業は、候補者の辞退や選考リードタイムへの影響が無視できない
特に、直近で一緒に働いた方からのフラットな評価が、候補者のスキル・人物像を最も的確に反映しますが、「選考のためのリファレンスチェック」では不要な負担が生じ、リファレンス情報の鮮度や精度も低下してしまいます。これは企業・候補者双方にとって好ましくありません。
そこで、『HERP Trust』 を評価・フィードバックツールとして展開し、仕事の節目でキャリア形成を目的としたリファレンスの記入を一般化することで、選考のためではなく、互いのキャリア支援のためにリファレンスを活用する社会を目指します。
リファレンスは履歴書や職務経歴書と同様に、誰もが持つキャリア資産となり、企業の採用活動と個人の就労体験を変革します。
リファレンスの普及が仕事をもっと面白くする
最後に、私の個人的な想いを少し書きたいと思います。
私は新卒1年目の頃から、「“仕事”の変革」を個人のビジョンとして掲げ、人生の3分の1を占める仕事を、多くの人にとってもっと面白く、充実したものにしたいと考えていました。
リファレンスチェックに強い関心があったわけではありませんが、たまたまいただいた機会から今のポジションに就き、事業の方向性を考える中で、「リファレンス」という仕組みが個人の仕事体験を大きく変える可能性を秘めていると感じるようになりました。
多くの職場では、社内評価によって昇格や昇給が決まり、キャリアアップが図られるため、モチベーションが内向きになりがちです。一方で、人事評価制度は人が人を評価するものであり、完璧ではありません。そのため、仕事のプロセスを十分に評価してもらえなかったり、「良い仕事」が正しく評価されないと感じることもあります。このような状況では、自身の成長や「自分の仕事が社会にどう役立っているのか」を実感しづらくなり、仕事の面白さを失いがちです。
リファレンスが普及すれば、社内メンバーだけでなく、顧客やパートナー企業、副業先など、日々関わるさまざまな人々からオープンにフィードバックが得られるようになります。これにより、自分の仕事が客観的に評価される機会が増え、フィードバックサイクルが高速で回り、成長速度も加速します。
上司からの形式的な評価ではなく、価値を受け取る側の人たちがオープンかつフラットにフィードバックすることで、「良い仕事」が正しく評価され、モチベーションの源泉が社内の承認からユーザー価値へと向かうようになります。結果として「成果に向かう組織」が生まれ、企業はより強く成長します。
個人にとっては、良い仕事をすればその評価が実績として積み重なり、市場価値が上がります。結果として、面白い仕事が増え、収入も上がっていくでしょう。
日々成果に向かって全力で働くことで、周囲から評価され、実績が積み重なり、収入も自然に上昇していく。リファレンスという「キャリア資産」が日々積み上がり、人生が豊かになることを実感できる世界。そんな社会が実現すれば、仕事が面白くて仕方なくなるでしょう。
リファレンスには、そうした無限の可能性があると信じています。そして、私はそのような世界を創りたいと思っています。
『HERP Trust』では、一緒に市場変革に挑戦してくれる仲間を募集しています。今回の話に共感いただけたり、興味を持っていただけたら、ぜひカジュアルにお話ししましょう。