伝統とは挑戦とジレンマの歴史だ!【福井県小浜市で『若狭塗』を発掘!】
塗り箸の国内生産シェア約8割を誇る一大産地、小浜市。
今回は福島県からのゲストをお迎えして発掘に出発します!
ガッチ株式会社代表取締役であり、松永窯4代目の松永武士さんです!
家業は福島県の伝統工芸品『大堀相馬焼』の窯元であり、松永さんはその4代目!
その商品開発や販売手法を他の産地にもコンサルティングしており、そこから生まれた商品を、自社で運営する工芸品ネットショップ『縁器屋』で販売しているという、伝統工芸界の革新的な若手経営者。
AERA「日本を突破する100人」にも選出されています!
以前から、小浜市の伝統工芸品である『若狭塗箸』に興味を持っていたそうで、若新プロデューサーとのご縁から、一緒に発掘に行くことになりました!
というわけで、今回は松永さんと一緒に、江戸時代から続く若狭塗にフォーカスして発掘に出発です!
実際に職人さんや問屋さんに話を聞いてみると、踏み込んでみないと分からなかった伝統工芸の業界の構造が見えてきました。
そこには、職人の葛藤や、さまざまな課題が存在しました。
しかし、そんな中で伝統を守るためにさまざまな挑戦をしている方たちに出会うことができたので、ご一読ください。
伝統工芸品だからこそ陥るジレンマを伝統工芸士から聞く!【加福漆器店】
まずやってきたのは『加福漆器店』さん。
ここは、製造から小売りまで一貫して個人で行っている漆器屋さんです。
そもそも『若狭塗』は、経済産業大臣によって指定を受けた伝統工芸品(正式には『伝統的工芸品』)で、小浜市周辺で生産される漆器のことを指します。
指定を受けたのは昭和53年ですが、その歴史はなんと400年以上!
かつての小浜藩主が若狭塗と名づけ、足軽の内職によって作られていたそうです。
製造には20ほどの工程(!)があり、まず貝殻や卵の殻で模様をつけて、その上に色とりどりの漆を十数回塗り重ねて模様を埋めていきます。
そして、塗り重ねた漆を砥石や炭で研ぎ出すことで、海底のような独特の美しい模様が浮き上がるのです。
結果的に塗った漆の半分は研ぎ削られることになるそう。なんとも贅沢!
そして、この若狭塗の技法を使って作られた箸が『若狭塗箸』です!
若狭塗の発祥当時は、まだ箸作りは盛んではなかったらしいのですが、水や熱に強いという理由から日用品として若狭塗箸が普及していったそうです。
箸は若狭塗の400年の歴史の中では比較的新しいジャンルのものですが、今では「若狭塗といえばお箸!」と思っている人も結構いるのではないでしょうか。
今回お話を伺った加福さんは、お父様の跡を継ぎ、伝統工芸士(認証試験に合格している方!)として若狭塗箸を作り続けています。
しかし、若狭塗が伝統工芸品として認められているからこその苦悩もあるとか。
実は伝統工芸品には定義があり、
「製造過程の主要部分が手工業的」
「伝統的な技術又は技法により製造されるもの」
といった条件を満たしている必要があります。
つまり、ただ漆を塗るだけでは正式な“伝統工芸品の若狭塗箸”とは言えないってことなんです。
伝統的な技法で若狭塗箸を作るには20もの工程をこなし、完成までにはなんと約1年(!)かかるそう。
それゆえ、大きいロットの発注などが来ても、納期が半年~1年かかってしまうことがネックになり、受注したくてもできないという現実があるそうです。
加福さんは、漆を塗るだけのシンプルなデザインの箸を作ったり、製造の効率化を図るために工程を省略し、早くお客さんのところに商品を届けたりしたい気持ちはあるものの、
そこを省いてしまうと正式な伝統工芸品の若狭塗とは言えない、
というジレンマに陥っているそうです。
加福さんの「守らないといけない伝統もある」という言葉が非常に重たく感じました。
また、合成樹脂を使う箸も市場には増えているそうですが、個人商店では大量生産できないため大きい会社に太刀打ちできない厳しさもあるそうです。
そこでふと、若新プロデューサーが「爪に漆を塗ることも出来るんですか?」と質問。
加福さん「乾かすのに時間がかかるので、爪には直接塗れないですが、ネイルチップに塗ることなら可能ですよ」
若新P「え!本当ですか!やってみたい!塗り重ねられた漆の質感を楽しみたい!カッコ良くないですか⁉漆の爪!」
漆の新しい可能性、発見⁉
近く、若新Pの爪が漆塗りになる日が来るかもしれません。
納品に時間がかかるのでタイミングを見てチャレンジしたいそうです!
地場産業復活に向けて改革にチャレンジ!【GOSHOEN】
続いてやってきたのは『GOSHOEN』!
ここは元々、小浜藩のお殿様などをもてなすために北前船の商人によって建てられた『護松園』という迎賓館でした。
県の有形文化財に指定されたために特別公開日以外は入ることのできない施設だったのですが、若狭塗箸の問屋である(株)マツ勘さんが「市民や観光客の憩いの場をつくりたい!」という思いから2021年にリノベーションを行い、『GOSHOEN』に生まれ変わりました。
施設の中にはマツ勘のオリジナルブランド『箸蔵まつかん』の直営店が入っています。
若狭塗箸をはじめ、現代の生活様式に合わせた食洗機対応のお箸など、様々な種類のお箸が取り揃えられています。
また、『ene COFFEE STAND』というお洒落なコーヒースタンドも併設されています。
「小浜のかけはしとなる、みんなの別邸」がコンセプトのGOSHOENでは、コーヒースタンドで購入したドリンクをテイクアウトして、シェアスペースで自由に寛ぐこともできます!
かつての趣が随所に残る建物で、庭園を眺めながら心地の良い時間を過ごすことができます。
二階には隠れ部屋のような場所があり、ここで優雅にコーヒーをいただくこともできます。
今回は、この部屋でマツ勘の社長、松本啓典さんにお話を伺いました。
マツ勘は創業100年を誇る、老舗のお箸問屋です。
創業当時は、小浜市西津の漁師さんの内職でつくられた箸を問屋として売りさばいていました。
しかし、近年は箸職人の子供が家業を継ぐことも減り、職人が少なくなっているそう。
松本社長は、「小浜市の主産業でもある箸産業に活気をもたらすことで、箸産業だけでなく地域全体の豊かな生活につなげたい!地域が盛り上がれば、箸産業のためにもなるはず」
「人の輪を広げるために、人が集える場所を作りたい!」といった思いから、GOSHOENを作ることに挑戦したそうです。
また、「"その土地ならでは"、というのがなくなると地域にも地場産業にも強みがなくなってしまう」と危機感を持っており、「これからは職人を含め地域のプレーヤーの手助けをしたい」と松本社長。
GOSHOENを中心に広がる盛り上がりに注目です!
100%天然の漆を使用!野球のバットが使われるお箸も!【兵左衛門】
最後にやってきたのは、箸の製造から卸、販売までを自社で行う『兵左衛門』さん。
こちらも創業100年を超える老舗メーカーです。
お話を伺ったのは、常務取締役の浦谷寿人さん。
こちらでは2000種類以上の多種多様なお箸を製造しているのですが、その中でも注目したいのが「かっとばし!!」シリーズです!
このお箸は、プロ野球をはじめ、社会人野球、大学野球などで使用される中で折れてしまったバットや、バットを作る際にできる端材を再利用して作られています。
バットからできたお箸という、野球ファンにとってはたまらない商品なのですが、これを購入することで野球業界を支えることにも繋がるんだとか!
というのも、良質なバット材として有名なアオダモという木は、材料になる大きさに育つまで70~80年かかってしまい、保護育成が大きな課題となっています。
この「かっとばし!!」シリーズの売上の一部はアオダモの植樹や育成に使われているんだそうです。
さらに、実際に箸を製造している現場も見学させていただいたのですが、そこでふと気づいたことが。
「工場なのに、静かじゃない?」
工場というと様々な機械がガッタンゴットン動いているイメージでしたが、静まり返っています。
なんと、ここでの作業は全て手作業。
削りも一本ずつ丁寧に行っているんだそうです。
さらに「毎日口に入れるお箸だからこそ、自然の木、自然の塗料にこだわり、より安心で安全なお箸づくりを心掛けています」とのこと。
下塗りから仕上げまで100%天然素材の漆だけを使い、直接口に入れる箸の先には、人体に有害な成分を一切含まないヴァージン漆を使っているんだとか。
また、兵左衛門は、自社で職人の雇用を確保するために販売に力を入れ、全国に販路を拡大。
東京・広尾にある直営店の他、全国の百貨店などにも販売店があるため、福井県外の方も、商品を直接手にとって購入ができるようになっています。
さらに、商品の安定供給を図るために製造から販売の値付けまでできる体制作りにも果敢にチャレンジしてきたそうです。
伝統を守るためには、挑戦や変化も重要なのだと気づかされました。
伝統工芸は、幾多の葛藤と挑戦の連続によって守られてきたのかもしれない
伝統工芸の世界では、職人は作ることに専念し、問屋は売ることに専念することで、品質の高い商品を全国に届けることができていました。
しかし時代の流れによって職人が減ったり、ビジネスの形が多様化したりと、伝統工芸を取り巻く環境は日々変化しており、
携わる人々は、それぞれの立場でさまざまなジレンマや葛藤を抱えているようです。
今回の発掘では、そんな中でも若狭塗・若狭塗箸という伝統工芸品を守り、次の世代に引き継いでいくために、職人も問屋も模索と挑戦を繰り返している、ということを知りました。
伝統工芸というと、古くから伝えられてきたものをそのまま守っているというイメージがありましたが、
400年の歴史の中には、時代や立場によってさまざまなジレンマや葛藤と戦うプロフェッショナルたちがいて、
それぞれが熱い思いで挑戦を繰り返してきたからこそ、結果的に今日まで若狭塗を守ることができたのかもしれないと感じました。
全国の伝統工芸品を見てまわってきた松永さんも、「職人さんからも問屋さんからも、若狭塗・若狭塗箸を継承していきたいという熱を感じた」と言っていました。
他の産地でも漆器屋さんが箸を出してるケースはあるそうなのですが、箸に特化した産地は全国で小浜にしかないそう。
「木地もしっかり作られているし、早速発注したい!」と松永さん。
伝統工芸のイノベーター、松永さんが太鼓判を押す若狭塗箸。
毎日使うものだからこそ、日々を豊かにするアイテムとして、皆さんの生活にも取り入れてみてはいかがでしょうか?
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