PMSのある研究生活を乗りこなす

私は毎月、「女の身体と研究はなんて相性が悪いのだろう」と嘆く。正確には「月経のある女の身体」と言ったほうが良いか。毎月襲いくるPMSは容赦なく研究を妨害してくる。

PMS(月経前症候群:日本産科婦人科学会)、生理前に起こる心身の不調だ。イライラ、集中力・認知力の低下、倦怠感、腹痛、おなかの張りなど、その症状は多岐にわたり、人によってさまざまである。

PMSに苦しめられる人は研究の世界に多いのではないか、と思うのだが、あまりそういった話を聞いたことはない。そもそも女性が少ないので女性研究者の生活の私的な部分について聞く機会が少ないということもあるが、下手をすれば変な興味の対象にされてしまう生理、PMSの話題は表に出しづらいのかもしれない。

このページでは毎月のPMSへの試行錯誤の成果を紹介する。私が試してみて効いた(気がする)対処やPMSをうまくやりすごす方法を紹介するだけなので、正確な医療情報については、他をあたってください。また、あまりに症状のひどい方は病院へ行くのがよいと思います。


PMSとは

PMSとは生理3日~10日前に始まり、生理開始とともに心身のさまざまな不調のことだ。全く症状のないという人から、生活や仕事に支障の出るレベルで重い人まで、人によって症状は異なる。

PMSの原因については、上で挙げた日本産婦人科学会の記述を見てみよう。

原因ははっきりとはわかっていませんが、女性ホルモンの変動が関わっていると考えられています。排卵のリズムがある女性の場合、排卵から月経までの期間(黄体期)にエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が多く分泌されます。この黄体期の後半に卵胞ホルモンと黄体ホルモンが急激に低下し、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こすことが、PMSの原因と考えられています。しかし、脳内のホルモンや神経伝達物質はストレスなどの影響を受けるため、PMSは女性ホルモンの低下だけが原因ではなく多くの要因から起こるといわれています。(「原因はなんですか?」|日本産科婦人科学会

こんなかんじ。複雑で一筋縄ではいかない相手なのだ。同じページ内には、

日本では月経のある女性の約70~80%が月経前に何らかの症状があります

とあって、これだけ女性にとってありふれた病気(上記サイト内では「病気」としてカテゴライズされているのでそれに合わせます。)な上にあまりに強敵なPMS!それなのに普通な顔して過ごしてるみんなすごい。


私とPMS

月毎に異なるが、およそPMS症状と呼ばれて挙げられるほとんどすべての症状に見舞われる。学部時代は症状を感じることはあまりなかったが、修士に入ってからひどくなった。実験のない研究なので、研究におけるほぼすべての時間を座り仕事に費やしているのがPMSを悪化させる要因かもしれない。そうはいっても、これ以上研究時間減らすわけにはいかないのだ。

研究上、特につらいのは認知能力の低下である。研究という高度な知的作業に毎日向き合っているがゆえに、自分の知能の低下がはっきりとわかる。

だいたい生理10日前から症状が現れ始め、5日前には英語論文を読むスピードが落ちる。3日前には、バイト先の事務仕事はできるものの、研究はまともにはできない認知能力に。生理開始前日なんて、自分で書いた日本語の論文の理解も難しくなる。

そうしたメンタル上の症状もありつつ、身体的な不調も並行して生じるし、生理が始まったら始まったで腹痛や倦怠感などは続く。月の半分は体調が万全ではない。ルナルナをにらみながらの研究生活である。

前述のように、私は修士課程に進学してからPMS症状がひどくなり、真偽のつかぬネットの情報を読み漁り、投薬以外のさまざまな対処を試してきた。

しかし、あまりにも情報が少なくないですか!?ルナルナは「忙しくせずにリラックスして過ごしてね」とか言ってくるし、生理用品のサイトは結局何したらよいかわかんないふわふわしたアドバイスしか書いてねえし、そういうんじゃなくて、もっと、アグレッシブに、この厄介者とうまく付き合う方法を教えてくれよ!!ねえ!!?!


PMSと戦い、うまくいなす

ここからが本題である。とはいっても、これだけやっていても上記のような症状には毎月悩まされているし、気休め程度でしかないのかもしれないけど、それでも少しは楽にはなるので、書き連ねてみようと思う。

本当は投薬した方がいいのかしらと思いつつ、そこまで踏み出せていないのが現状だが、あまりにひどくなったら漢方の導入を検討している。(→漢方導入しました!さすがにしんどいので投薬しようと思って内科に行ったら、この症状だとピルではむしろ悪化してしまう可能性があるとのこと。漢方薬を処方してもらったところかなり改善しました)


1. 身体を動かす

私は運動が苦手だ。高校生のとき50m走で12秒という奇跡的なタイムを記録し、「途中でお茶でもしばいてんのか?」と笑われた人間である。それゆえ、身体を動かすことに苦手意識があり、恥ずかしさもあった。

そんな私が変わったのは、修士一年の終わり、桜が咲き始めた頃である。春休みを良いことに毎日座りっぱなしで研究に励んでいた私は、20代前半にしてぎっくり腰になった。友だちと『バーフバリ 王の誕生』を観に行く予定を泣く泣くキャンセルせざるを得ず、苦い思いを胸に、一念発起。腰をいたわるため、ホットヨガ教室の門を叩いた。

これが思いもよらぬ効果をもたらす。まず、夜も眠れぬほど苦しんだ生理痛がほぼ消滅。そして、PMS期間が短くなった。これはホットの部分が良いのか、ヨガの部分が良いのか判然としなかったが、教室をやめた現在、youtube動画のインストラクターに師事しつつ、ホットでない環境にて行うヨガでも一定の効果を得られているため、少なくともヨガの部分に多少の良い部分がある。

とにかく身体を伸ばすことが大切なようだ。ヨガでなくストレッチでも良いだろう。PMSや生理のある時期に限らず、毎日15分程度はやるようにしている。少しずつ身体を整えておくことが大事である。特にあおむけの状態でひざを抱え、左右にごろごろするのが腰回りに効く。

また、筋トレも効果があるように思う。スクワットなどで腰を強化しておくと、その月はかなり楽に過ごせる。散歩もいいぞ。


2. 身体を温める

これはPMSにも生理痛にもよく言われるし、言われすぎて、「わかってるよ!!」と思春期の中学生のごときセリフが口をついて出そうだが、とても大事である。

PMSによく効くとうわさの「命の母ホワイト」(私は使ったことがない→使いました!私にはあまり合わなかったようで、効果が分かりませんでした。)の商品説明には次のように書かれている。

命の母ホワイトで、血行をうながし
からだを温めて女性ホルモンや
自律神経の乱れによって起こる不調を改善!(「命の母ホワイトとは」|小林製薬株式会社

とにかく身体を温めるのが効くということはありそうだ。

いったい温めるといっても何をしたらよいのか、というところだが、私が心掛けているのは次のとおりである。

・湯船につかる

・飲み物はできる限り温かいものを飲む

・常に靴下を履く

・腹巻をまく

・サウナ行く

そう、最後に書いたサウナが大変おすすめである。今年は空前のサウナブーム、私も流行りにのって週に一度は近所の銭湯サウナに行っているが、これは調子が良い!

一説には、サウナでは血行不良は改善されないという見方もあるそうだが、そのあたりはちょっとわからないです。とにかく効いてるかんじはある。

サウナ行かないにしても、気休め程度でなく、とにかく徹底的に身体を冷やさないという努力を毎日重ねている。


3. コーヒーのまない

コーヒーは研究生活に欠かせない、かもしれないが、カフェインはPMS症状にはよくないそうなので排卵日すぎてからは飲まないようにしている。

その代わりにカフェインフリーのハーブティーとか飲んでる。成城石井とかで売ってるPUKKAは味が複雑で面白いのでお気に入りです。
また、私はコーン茶とかハト麦茶とか利尿作用のあるお茶を飲むと下腹部の違和感が軽減される。これはおそらく腸のむくみが解消されているのかも。


ここまではPMSの症状を減らすためにやっていることだったが、抵抗するのではなく、PMSを受け入れ、いなしていく方法も紹介する。


4. ルナルナと相談しながら研究スケジュールを立てる

PMS~生理の時期に効率が落ちるのは仕方ないと受け入れることにして、その上で戦略的な研究の進行を目指している。最近はルナルナ(似たようなアプリ何でもいいと思う)の予測を見つつ、研究スケジュールを立てている。あまり役立たないかもしれないが、一応手順を紹介したい。

① 生理の終わったあたりで、全体的な研究スケジュールと照らし合わせつつ、前月の研究の進行を確認し、その先一か月で必要な作業をあぶりだす。

② 上で必要と分かった作業を、集中力や認知能力が必要とされる順に分ける。私の場合は、次のABCの基準で割り振っている。

A 一番大変:非日本語の文献を読むこと。隅々までの精読を求められる上、論文の構成等にセオリーがある分野でないので大変頭を使う。

B 真ん中くらいの大変さ:調査・分析や論文執筆など、能動的に手を動かすタイプの作業。日本語の文献も読むのもこの難易度。

C 最も楽:資料探索や整理、参考文献管理など研究内の事柄でない作業。

③ PMS始まるまでにAを終わらせ、PMS始まったらB、生理直前にCの作業をできるようスケジュールを配置する。

もちろん、学会や研究室内での発表など、不規則な予定が入るし、生理周期がずれることもあるため、この通りに行かない月のほうが多いのだが、自分の能力と作業の難易度の照応を意識しておくだけでも、かなりストレスが軽減されるように思われる。


5. 諦める

本当にPMS症状がきついときに、研究を無理やり進めようとしても、進まないし、強い精神的ストレスがかかってさらに体調が悪化するということもある。無理せず研究をしない選択もとることも頭に入れている。

男子学生が多い環境で、同じように闘わなければならないと気を張り、PMS+生理と正面衝突していた修士の頃は、毎月暗黒の期間を過ごしていたが、どうにもならないこの身体を受け入れ、ある意味で諦めるようになってからは、むしろ自分を大事にするようになってPMS症状が和らいだ。ご自愛も大切かと思います。

もちろんそんなこと言ってられない修羅場も、博士課程の人間には(あまりにたくさん)あるのだが、自分の状態と向き合い相談しながら、時には勇気を持って自分を大切にすることも、研究能力の一つではないだろうか。


ここまで、私が研究生活の中で自分の身体と向き合い、試行錯誤の結果得た教訓を書き連ねてきた。ネットで検索すれば出てくるような当たり前のことばかりだし、劇的な効果がある対処でもないのだが、たぶんどこかにいる、研究の世界の苦しむ女性に、同じように悩んでる人間がいることが伝われば良いかと思う。


また、本ページの情報は正確な医療情報ではないので、つらい方は病院に行くこともぜひ検討してください。

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