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わかおの日記327
祖母の病院に行った。小平駅に行くと、ロータリーに祖父が車を停めて待っていて、それに40分くらい乗って羽村の病院まで行く。
病院の入り口でマスクをつけて、検温をして、検温をしましたよという証明のシールを貰って時間になるまで待つ。
雨だから、ぼくと祖父以外に人がいなくて、ときどき職員が慌ただしく通り過ぎるだけだった。真っ白な蛍光灯が真っ白く廊下を照らして、気味が悪かった。掲示板には終活を推奨するポスターが貼られていた。
「エンディングノートを書くって、自分があの世に近いってこと?」
「むしろ元気で、自分の意思がしっかりしている時から書き始めた方が良いと思います!」
14時になり許可が出たので、エレベーターで4階まで上る。ドアが開くと、車椅子に座った祖母が目の前に居た。車椅子ごと横を向いていて、祖母の向かい側にはぼくたちが座るための椅子が用意されていた。
祖母は何も喋らなかった。というか喋れないのだ。喋れないし、目も開かない。寝ているか起きているかも分からないけれど、ぼくが手を握ると意外に強い力でギュッと握り返してきて、少しびっくりした。ずっと切っていないから、髪の毛は無造作に長く、マスクの下からは白い髭が覗いていた。
最初は「ソウタロウです。バーバ、お久しぶり」などと話しかけていたが、聞こえているかも分からないので、途中からは黙って祖母の手をずっと握っていた。祖父はなぜか祖母の足をずっと揉んでいた。マッサージのつもりらしかった。
手を握っている間、祖母は完全に眠っているような顔になったり、かと思えばしわくちゃの、泣いているような顔になって、口をガクガクいわせたりしていた。それでも言葉は出てこないので、マスクの下から涎が垂れるだけで、パジャマが少し濡れてシミになった。
悲しくなったり、でも握る手の暖かさに懐かしさを感じたり、早くおわんねーかなー、と思ったりしながら、さすがに悪いので時々「バーバ、起きてるカナー?」などと呼びかけたりしているうちに、タイマーが鳴って面会時間の15分が終わった。
祖母の面倒を見ている看護師のおばさんが来て、祖父にリハビリの書類を書かせながら話す。祖母が特に困った行動を起こさないこと(動けないし、喋れないんだから当たり前だ)、容態が安定していることなどを教えてくれた。
「持ってきてくださった、アンディ・ウィリアムズのCDをかけると、穏やかな顔になるんですよ」
「ああ、あれは昔、好きだったんでね。昔は兄弟のあれ、バンドで、日本に来て、リサイタルに行って、CDも買わされたんです」
病院を出て車に乗り、羽村高校の貧相なグラウンドを眺めながら、母親が台所でムーン・リバーを歌っていたのを思い出した。