
Photo by
ichinisan
緑の春
私は、この人と別れたことを知っている。
そう思いながらあなたを目で追うと
あなたは笑いながら隣を通り過ぎて部屋の奥へ向かった。
振り返ってあなたを見ると、あなたは私に向かって何かを話していた。
笑っている。
眩しさに目を細めた。
この人は私と付き合っているつもりなのか。
声は聞こえない。開け放った窓から入る暖かい風が、カーテンを揺らしている。
ゆらゆらと光が差し込んであなたを包む。
ねぇ、私たち別れているんだよ?
ぼんやりと呟くと、カーテンが大きく揺れて私は目をつぶる。
目を開けると、ビル街を歩いていた。
よくあるビル街だから場所はわからないけれど、綺麗に晴れた日で新しい街のにおいがした。
そして、まっすぐ前を向いて歩くあなたが私の隣にいる。
私はそんなあなたを知らないはずなのに。
ねぇ、私を見てる?
まっすぐ進む先には開けた場所があって、整理された緑が見えた。
都会の緑は黄緑がよく映える。丁寧に並べられて行儀よく揺れていた。
ねぇ、どこへ行くの?
問いかけた声は頭の中に響くばかりで、隣にいるかも分からなくなってくる。
あなたは私のことを知ってる?
私たちはもうずいぶん前に別れたのだもの。
私はあなたを知らない。
新しい街でスーツを着て、真剣な眼差しで進んでいくあなたを私は知らないんだよ。
今の私と、きっと、今のあなた。
あの頃の夢だったら、昔を思い出す懐かしい夢だったら。
なんでなの?
始まりの夢にあなたがいる。 春だね、もう春だ。