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軍人マンネルヘイムに学ぶ社会人のための【負ける力】思考法


戦争において、優秀な指揮官とは何かと問われたとき、多くの人は「勝ち続ける人」であるといいます。しかし私達は人生において、勝つ機会より負ける機会の方が数としては明らかに多いでしょう。

だからこそ、難しい課題などの困難に直面した時にどのようにすれば良いのかを知ることが、非常に重要になるでしょう。その力を今回はフィンランドの軍人であるマンネルヘイムと冬戦争から学び取っていきます。

人物紹介

彼、マンネルヘイムは1867年に帝政ロシア(現在のフィンランド)で生まれました。彼はその後ロシア帝国軍の軍人として日露戦争などに参加しました。その後帝政が崩壊しフィンランドが独立を求めた際には、フィンランドの白衛軍の司令官として独立を指揮し、その後もフィンランドの国防のため、軍備や要塞などの更新に力を入れました。

第二次世界大戦では冬戦争、継続戦争で最高指揮官として圧倒的な物量差の中、ソビエト連邦と戦い、休戦後はラップランド戦争でナチスドイツとも戦いました。

ソビエト連邦には敗北し、結んだモスクワ休戦協定は厳しい内容でしたが、その中でもフィンランドの主権と独立をマンネルヘイムは守り通す事ができました。

❶中途半端な準備でも強みになる

中途半端な準備は中途半端な結果しか生まないとよく聞きます。ですが準備をしようとしても、力不足やスケジュールなどで準備不足になってしまう事も多いでしょう。もちろん完璧な準備ほどいいものはありませんが無理に完璧にしようと思うより、中途半端な準備は中途半端でも必ず仕上げてしまった方が良いのではないでしょうか。

冬戦争でフィンランドはマンネルヘイム線と呼ばれる要塞線を使って防衛を行いました。ですがこの要塞線。完璧とは程遠い、超中途半端な代物でした。構想されてから長らく放置されたり、着工時期が古いなどの理由でまともな対戦車装備などは全くもってありませんでした。要塞自体もマジノ線のような大量の物資で補強された強固で堅牢なものでなく、自然の地形や物資を利用したりなどして徹底的にコストカットされた物でした。さらに結局この要塞線は冬戦争までに完成しませんでした。

普通に考えたら、こんなもの役に立つかと思うでしょうが、このマンネルヘイム線は2つの意味で大活躍することになります。

まずこの要塞線。どんな攻撃にも耐えられるような完璧なものではありませんでしたが、特定の条件下では完璧な要塞線となりえました。なぜなら敵のソ連軍が得意の戦術が使えなくなったからです。

┣ 相手の弱点を突いた準備

フィンランドとソビエトの国境は広いように見えて、湖や深い雪原などに阻まれて、軍隊が通れる道はそこまで多くありません。そしてその通れる場所をフィンランドは要塞化させました。しかしソ連軍は縦深戦術と呼ばれる、広範囲を線上に高い密度でまっすぐ攻撃する戦術を得意としていました。高密度大規模での戦闘では迂回などの戦術がが使えず、要塞線の弱点を攻撃する事が難しく、ソ連軍は狭い範囲でしか戦えず強みを活かせませんでした。

そしてこの要塞線が敵を足止めする事によってソ連軍は狭い範囲で高密度での軍事行動を必要とされ、補給不足や死傷者の増加などが発生し、ソ連軍をいわば自爆のような状態に陥らせました。

┣ 思いもしなかった効果

このマンネルヘイム線。戦いで利用する他、もう一つ大きな役割を果たす事になります。それは象徴としての役割です。

前述の通りソ連軍はマンネルヘイム線で大きな損害を出しました。ソ連軍はこれらの理由を「強固な重武装の要塞線」の存在だとし、マンネルヘイム線は大きく過大評価を受けます。これに乗じフィンランド政府もマンネルヘイム線を過大にアピールしたので、実際は疎放に作られた要塞も、国民の感情を団結させる象徴となり、他国の関心を集める事にも大きく貢献しました。

┗ まとめ

このように「目的に沿った内容」「最低限の機能」さえ揃っていれば準備がなくとも、大きな効果を生み出す事が分かります。マンネルヘイムは中途半端でも、別のできそうな事にリソースを割かず、やるべき準備をしていた事で、予想より多くの結果を生み出せました。

❷大事なのは勝つ事でなく、上手に負ける事

マンネルヘイムは優秀な指揮官として有名ですが、勝つ事はそう多くありませんでした。ですが負ける事が彼を優秀たらしめる要因です。

フィンランドは冬戦争や継続戦争などでソ連と戦ってますがその何れも敗北しています。ですが厳しい条件の中、フィンランドは独立を保ち民主主義を貫く事に成功しています。対してドイツなどの敗戦国は東西に分断され政体も無茶苦茶にされてしまいまいました。フィンランドがそうあれたのはマンネルヘイムあってのことでしょう。

スポーツなどでは良く、全力を尽くせ、余力を残すな、などと聞きますがときには余力を残して負ける事もいいかもしれません。なぜなら負けた後でも相手と様々な交渉があるでしょう、その時に残す手が一手もないと、相手の言い分を無条件に飲まなければなるかもしれません。

┣ 相手を疲弊させる

前の項でも述べた通り、ソ連はフィンランドに比べて多くの犠牲者を出しました。フィンランド側の戦死者は約3万人に対し、ソ連側は少なくとも約12万人、一説には20万とも言われる犠牲者を出しました。これは要塞での防衛戦の他、フィンランド軍の決死の遅滞戦闘やスキー兵を使ったモッティ戦術による影響が大きいでしょう。

ソ連軍は当初はフィンランドの全土占領を目標としていましたが、フィンランド軍による予想以上の反撃を受けたため、全土占領の利益より自軍の犠牲による損害が多いと判断し、フィンランド軍に休戦協定(ソ連側有利)を提示する事になります。

モスクワ講和条約では、カレリア含む領土の一部割譲と、一部地域のソ連軍の軍事通行が決められたものの、開戦理由となった領土活動要求までに抑えました。最初の領土要求を飲んでいたらソ連は要求を繰り返し、フィンランドがソ連構成国として併合されていた可能性もあります。

┗ まとめ

勝つことはとても重要です。でも勝つことに執着した結果、負けたときに大きなものを失ってしまっては元も子もありません。交渉などでも勝つことを考える前に、最終的に最低限守るべき事を決めたら、どの部分で妥協し要求を飲んでいくのかを考えてみるといいかもしれません。

❸最後に

すべての事を勝ち進んで行く事って難しいですよね。負けそうだったり挫けそうなとき、「勝つ」という大きな目標に圧倒されて何もできなくなってしまっていませんか。そんな時は無理に頑張るより「上手に負ける」事を考えてみるといいかもしれません。

フィンランドの独立を守ったマンネルヘイム元帥は私達にそんな事を教えてくれるような気がします。







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