詩/マグカップに顔を隠して
「マグカップに顔を隠して」
決まった時間に
暖簾(のれん)を仕舞うように
隣りの家が雨戸を仕舞う音がした
いつもなら気にもしないその音が
あの日に限っては
居残りで食べた給食の味がした
黒いバターが溶けるように
黒い氷が溶けるように
明るかった部屋を塗り潰した
机のディスプレイだけが
腰掛けた僕を照らした
まだ暗いままでいいやと思った
そう思って、ずっと暗いままでいた
お腹も空いたけど、ずっと暗いままでいた
そのまま、眠ってた
そしたら机の脇になんか置かれてた
なんだっけ?
焼きそばだったかな?
覚えてないけど、
焼きそばだったことにしよう
灯りつけよっか?ってきみが言った
暗いままでいいよって僕が言った
そしてそのまま焼きそばを頬張った
そしたら
少し小さなボリュームで
暗いと美味しく食べられないよ
って聞こえた
頬張ったまま振り向いたら
マグカップに顔を隠して笑ってた
暗いままでよかったけど
頬張ったまま僕も笑った