なぜZ世代は協調性を重んじるのか?


「他者への配慮」を意識する若者たち

今、若者たちは「他者への配慮」を強く意識している。2010年後半ごろからDiversity & Inclusion(多様性と包括)というコンセプトが浸透し、若者もその影響を受けているが、「他者への配慮」意識の高まりは単にD&Iによる影響だけではない。若者の研究所が独自に行ったインタビューにより、若者のコミュニティがネットワーク化しており、その中での交友関係を正常に保つための手段として「他者への配慮」が求められていることが分かった。

若者のコミュニティは「広く浅く化」している

実は、今日の若者が所属しているコミュニティはとても多い。例えば、都内の私大に通うAさんの場合は8個所属している。

Aさんの所属する主なコミュニティ
1.アルバイト(居酒屋)
2.アルバイト(進学塾のチューター)
3.サークル(バンド)
4.サークル(フットサル)
5.若者の研究所
6.大学の同じ学科の友人
7.ゼミ
8.高校時代の友人

若者の研究所 独自インタビューより

本人曰く「これでも少ない方」とのことだが、若者は8個ほどの交流関係を常に持っているとしよう。1つ1つのコミュニティにかけられる時間はどうしても少なくなる。若者の交流関係は、時間的な観点に目を向けると、広く・浅くなっていると想像できる。

マイノリティは若者にとってはもはやマイノリティではない

マイノリティにも様々な種類がある。例えば、性別的・経済的・国籍的・民族的・人種的・宗教的などである。
実は、若者にとって「マイノリティ」という言葉はあまり意味をなさなくなっている。なぜなら、若者の周囲にはマイノリティがごく当たり前に存在するからだ。自分自身、自身の友人・身内、あるいは友人の友人・身内には少なからず1人はマイノリティに該当する人がいるのである。

また、上述した通り若者のコミュニティが広く・浅くなっているため、マイノリティが周囲にいる確率は上がっている。その際、不用意な発言で相手や、相手の身内を傷つけてしまわないよう、「コンプライアンスに気を付けて、言葉を選んで」会話をするのである。

「コンプラ」に気を付けて会話をしているなーと思います。「相手に配慮できていない人」って思われるのはイヤだし。そうそう、例えば、「K-Popを嫌い」とか安易に言えない・言ってはいけない気がします。韓国人の彼氏がいる友達もいるし・・・音楽性の趣味嗜好の話ではなく、差別主義的、とネガティブに捉えられてしまう可能性がある。その中であえて「嫌い」と主張すると、波風が立ってしまう。むやみに角が立つような意思表明すること自体が損になります。

若者の研究所 独自インタビューより

コミュニティが浅く広がる中で、目の前の相手がどのようなバックグラウンドで、どのような交流関係があるのか。それがわからないことを前提に、相手自身だけでなく、相手の交流関係にまで配慮したコミュニケーションを若者は意識している。

「コミュニティのネットワーク化」により共演NGを避けなくてはならない

「目の前の相手の背景まで意識をしたコミュニケーション」を求められるのはもう1つ大きな理由がある。「コミュニティのネットワーク化」である。現代の若者が所属するコミュニティとは、1つ1つが独立したものではなく、コミュニティの所属者が一部で重なりを持った依存性ものである。この状況で、若者は誰かと対立しないよう、温厚に振舞う必要性=同調圧力に晒されている

例えば、渡邊さんのゼミにはAさんという親友がいたとき、下記のようなことがコミュニティの重複が起きている。

  • Aさんと渡邊さんはゼミ、アルバイトも同じである。

  • Aさんの親友Bさんと渡邊さんはサークルが同じである。

  • Bさんの親友は、渡邊さんの高校時代の親友である。

このような複数のコミュニティで所属者の重複が見られるときに、誰か1人と対立すると、複数のコミュニティで居づらさや気まずさを感じることになる。1人と「共演NG」になることは、複数のコミュニティにアクセスできなくなることを意味する。

「いいヒト」であることを求め続けられる同調圧力

上述した「コミュニティのネットワーク化」により、若者は「他者に配慮したコミュニケーション」を毎日求められている。共演NGを作らないふるまい=「いいヒト」であることが常に強制されているのだ。

そして、この交流関係が、サークル・アルバイト、ゼミといった実世界の繋がりだけでなく、オンライン上でも展開されているのである。
親友のグループだけでフォローしあったクローズドなSNSアカウントをコミュニティごとに複数所有していたりする。また、LINEグループはコミュニティごとに100件以上同時に所属している。

このように、ネットワーク化したコミュニティに所属する若者は、常日頃、オンラインでもオフラインでも「いいヒト」でなくてはならない。

この「ネットワーク化したコミュニティ」こそが、Z世代の傾向としてよく語られる「協調性を重んじる」の根底にある彼ら・彼女らの背景である。

若者の研究所レポートについて

Z世代の価値観をZ世代が深掘り。“ディープ”な調査レポートを毎月発行。
高校生・大学生による若者のシンクタンク・コミュニティ“若者の研究所”は毎月、様々なテーマに対し、Z世代の思考・価値観・行動の傾向に迫る調査レポートを発行しています。
Z世代は1996~2010年生まれの現在13〜27歳の若者を指し、今や日本の総人口の約14%を占めています。一方、世界全体の場合は約32%といまや、Y世代を上回る人口占拠率です。
日夜、Z世代向けの調査記事などが増え続け、「Z世代をもっと理解しようとするための情報」は溢れています。しかし、「Z世代は〇〇だ」と言われても、なかなかピンとこないことも多いのではないでしょうか。
Z世代の当事者は、個々人を一括りにされることに違和感を覚えることも多くあります。"若者の研究所"では、彼らの行動や価値観をより深く掘り下げるための独自調査を、Z世代自らが発信していきます。

本レポートの著者について

  • Kent Ishizaki | 石崎 健人

  • Managing Director | Weiden Haus

  • 株式会社バイデンハウス | 代表取締役

  • 若者の研究所 | 共同研究員




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