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鴨川、雨と桜とラーメンと。

3月31日。
故郷大阪を離れ、京都での暮らしが始まった。
前職の業務が際の際まであったため、引っ越し準備には二徹を要した。積み残した荷物を両手に抱え、二時間ちょっとの小旅行。アラサーの体力はすでに限界に達していた。

新居ほど近くに市バスの停留所があることは知っていたが、何系統だの何番バスだの調べる気力もなく、タクシー乗り場へ直行した。
「バスがないならタクシーに乗ればいいじゃないの」的発想に、私も大人になったものだな〜としみじみしつつ、「1000円は超えへん思うけどええか?」と問いかける運転手のおっちゃんに「大丈夫です」と即答した。

運転手のおっちゃんは土地勘がないと言う私に通りの名前を一つずつ教えてくれた。この辺は栄えてるとか、丁寧に教えてくれた。おっちゃんはメーターが上がるたびに1000円以内には収まると思うと言うので、私はその度に「大丈夫です」と即答した。

降り際、800円弱の料金を財布から取り出していると、おっちゃんが「学生さんか?」と聞くので、職場が変わるので引っ越してきたと伝えると「学生さんちゃうんか!」と大変驚いた。タクシーを降りた後もおっちゃんの「がんばりや!」という声が脳内で何重にもリフレインしていた。知らない街に一人放り出された私はちょっとだけ不安になった。


4月1日。
そういえば、桜見てへん。
新しい職場での長い一日を終えた帰り道、出町柳駅のタクシー乗り場で視界にチラッと映った川沿いの桜を思い出した。

4月3日。
雨が降っていた。それでも桜見たさに市バスの時刻表を調べた。最寄りの停留所から出町柳駅まで230円、滞りなくたどり着いた。
停留所から少し歩くと、立派な満開の桜並木が駅前の道路沿いにも川沿いにも続いていた。

出町柳駅前の桜
鴨川沿いの桜

引越し、新しい住まい、新しい職場、初めて出会う人。目まぐるしい初めての連続の日々だった。
たった2.3日で私を取り巻く色々な環境は変わった。周りの人は優しくて、新しい町は過ごしやすくて、とても恵まれた引越しだった。その一方で、鏡に映る自分の姿は大阪にいた頃と何も変わらない。この街に早く慣れないと、早く成長しないと、と気持ちだけが日毎に急いてゆく。

そして、川に来た。滔々と流れる川、雨風に打たれる桜の花、ユキヤナギの芳香、橋の下で雨雲に項垂れる人たち。そこには私に無関係なものばかりがあって、私はこのひとときが心地よかった。私はただの私であった。

鴨川に臨むユキヤナギ
独特な芳香を振りまいている

そんなこんなで少しだけセンチメンタルというか、辛気臭い気持ちでぷらぷらと歩いているとしっかり腹が減った。

「らぁ麺 今出川」さんは新しい職場の見学時に立ち寄ったことのあるお店だ。脂の浮いた醤油ブラックスープに目がない私にとって、今出川ブラックはまさにどストライク。他にもたくさん飲食店があるにも関わらず、私は再びらぁ麺今出川さんに吸い寄せられた。

シンプルで清潔な内装もまた来たくなるポイントだった。一見、特濃に見えるブラックスープだが、醤油のしつこさを感じさせない上品な味わいだ。舌触りの良い中太のストレート麺にも小気味よさを感じる。今度来たら煮卵付きのメニューを注文しよう。

今出川ブラック

美味しいラーメンを食べてお腹が一杯になると川や桜を見ながらなんやかんや考えていたことをすっかり忘れていた。結局私は生き物や草花が好きでラーメンを主食とするそのままの私である。

この街で私は変わっていくのだろうか。
今は私のままで、新しいものを恐れずに、変わることも変わらないことも恐れずに暮らしたい。

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