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サクラサク。ep2

吾輩は猫である。名前は朔(サク)。先日、小川のほとりで、サクラに出会った。桃色の雪の正体を教えてくれたニンゲンだ。
桜と同じ色を着ていたから、彼女をサクラと命名した。吾輩、ニンゲンに名を与えるとは、偉い猫である。

桜が舞う季節は終わってしまったようだが、彼女は相変わらず、桜と同じ色を着ていた。

「こんにちは、クロ」
サクラは吾輩をクロと呼ぶようになった。吾輩、誠に遺憾である。
ご主人様がくれた、朔と言う立派な名前を否定されたような心地だからだ。

「まだここに居てくれたんだね。私はたまに、君にすごく会いたくなるときがあるよ」

しかし、こんなにも熱烈な愛の言葉をささやかれては、反論の余地がない。
クロでもシロでも、好きに呼ぶが良い。

「クロは生き生きとしていて安心する」

サクラは時々変なことを言う。生きているのだから、生き生きとして当たり前だろう。
死んでいるモノは、シニシニとしているとでも言うのだろうか。

「じゃあ、またね」

彼女はそう言って、また去っていく。
いつも、明日会えるみたいに。
会える保証なんて、どこにもないのに。

吾輩、早くご主人様の元へ帰りたい。
だけど、きっとサクラが悲しむだろう。

吾輩、ご主人様の元へ帰れない。
帰る道も思い出せない。

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