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サクラサク。ep12
吾輩は猫である。名前は朔(さく)。ご主人様と離れて人間・サクラと暮らし始めた。なお、サクラと一緒にいる間はクロと呼ばれている。
お互いが、お互いのいる生活に慣れ始めた。
「ただいま、クロ」
玄関まで迎えに行くと、靴をきれいに揃えるサクラが、吾輩の頭に触れる。吾輩は甘んじて受け止める。
一緒に暮らし始めた当初、サクラは慌てたように帰って来ていた。吾輩のことが心配だったらしい。サクラは今まで猫を飼ったことがなかったようだ。
だけど、猫はそんな簡単に死なないし、どこにもいなくならない。そもそも鍵がかかっているから出られない。
部屋にずっとこもりっぱなしだが、全然退屈ではない。吾輩は生まれたときから家猫だったからな。前のご主人様も、昼間は仕事でいなかった。
「クロは毎日、同じものばかり食べて飽きないかな?」
そう言って、違うエサを色々買ってきてくれた日々もあった。だけど、吾輩はいつものカリカリが好きなのだ。サクラも試行錯誤の末にわかってきたらしく、いつも決まった時間に決まったエサをくれるようになった。
ニンゲンは、毎日違うものを食べないといけないなんて、大変だ。
だけど、サクラはゴハンが好きみたいだ。サクラがキッチンに立つと、美味しそうなニオイがたくさんする。
「そんなスミっこにいなくても良いのに。こっちにおいで」
サクラがトントンとソファーを叩く。本当はまだ少し吾輩の爪が怖いくせに。
サクラの部屋は綺麗だ。綺麗すぎて、吾輩はどこでくつろいだら良いのか思案していた時期があった。
そっと、サクラと距離をつめてみる。お互いが居心地の良い距離感を模索する。
変な遠慮をしなくても良かったようだ。
育ってきた家とは違う場所で棲むというのは、緊張が走る。だが、自分たちで自分たちらしい空間を作っていくというのは、面白い。
当たり前の毎日が、当たり前に続くってことは、こんなにも安心することを、改めて思い知る。
ニンゲンに猫の言葉は通じないが、きっとサクラにも、同じ想いは伝わっているはずだ。