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研究計画|ウィーン大学・哲学プラクティス

 ウィーン大学の哲学プラクティスという分野で、2024年秋から2年間研究します。研究と言っても、論文を仕上げるための課程ではなく、社会の中で哲学をしたいと志す人を支援する実践的なコースになっています。オーストリア政府奨学金やウィーン大学出願にあたって書いた、研究計画になります。哲学対話をどう社会の中で実践できるか、その方向性については、ウィーン大学の中でまた試行錯誤することになるだろうと思っています。ただ、その現時点での目論見について書きました。今日は目次つき!それでは!


1. 将来の目標


 私の目標は、ウィーンを拠点に哲学者として働くことです。大学教授等のアカデミックなポストに就くのではなく、哲学者の視点や技術を社会で活かしたいと考えています。哲学者として社会の中で働くことについて、私は二つの可能性があると考えています。

 第一に、人生がどうも上手く行ってないと感じる個人のために、カウンセラーとして支援することです。人間関係の摩擦や予期せぬ体験から生じた苦悩について、哲学者はそれを一緒に眺め、分析することが出来ます。そして、彼らの苦悩の意味を一緒に見つけ、その人が前向きに生きることに貢献します。
 第二に、企業の中でコンサルタントとして働くことです。経営方針の策定や組織開発、人材育成等、企業の抱えるさまざまな問題に対して、哲学者は「答え」を提供するのではなく、問いを立て、異なる視点を持ち込むことで、新たな気付きを創出し「組織独自の納得解」を見つける手助けをします。

 この二つの可能性を追いかけながら、ウィーンで哲学者として働くことを強く希望しています。

2. 研究概要


哲学プラクティスとは
 私は哲学プラクティスという領域について、ウィーン大学の修士課程にて二年間学びたいと考えております。伝統的な哲学研究では、文献を解釈し、その中で得られた洞察を論文として発表することが一般的でした。一方、哲学プラクティスは、哲学者の問いを立てる技術や前提を疑いながら現象を捉える姿勢、複雑な問題を解きほぐしくて本質的な問題を発見する技法を、社会の中で実践しようとするものです。特に、人々と哲学的な対話を行い、共に探究することに重きが置かれています。

 哲学プラクティス研究の重要性は、これまでほとんど大学に閉じられていた哲学の門戸を開き、哲学という学問を社会へ拡張することあります。市井の人々と哲学することは、個人の人生や企業においてこれまで行われてきた密かな探究を哲学の力で後押しし、力づけるものです。個人や企業において、問題を解消するだけでなく、哲学することの楽しさも人々と分かち合いたいと考えています。

ウィーン大学における研究
 哲学プラクティスは、1982年にアッヘンバッハ氏によってドイツで始まりました。その起源は、哲学者の本質を捉えようとする態度をカウンセリングへ活用したことです。現在、ドイツ語圏では教師や開業医、経営コンサルタント等、幅広い分野で哲学を実践する「哲学プラクティショナー」が活躍しています。

 そして、現在、アッヘンバッハ氏から教えを受けたドナタ・ロミジ教授が中心となり、ウィーン大学において、哲学プラクティショナー養成のための修士課程が開講されています。私は、二年間の修士課程の中で、社会の第一線で活躍する哲学プラクティショナー達から知識と技術を学び、自身の哲学実践をプロジェクトとして実行します。そして、それを活動報告としてまとめることが本課程の修了要件です。

3. キャリアにおける研究の位置付け


 私はこの研究を基点として、哲学を社会の中で実践する哲学プラクティショナーとしてのキャリアを始めたいと考えております。
 本プログラムにおいて、哲学を活かすことの出来る分野について理解し、理論の研究と社会の中で哲学することの間を往復することに注力します。知識を深めるとともに、実践で技術を磨いていきます。修士課程の終わりに、哲学プラクティスの多くの可能性の中から、自分が生涯を賭けて取り組む領域を選び、哲学者として働き始めます。

4. 研究関心


 私の学術的な関心は二つあります。
 一つ目が、人はどのようによく生きることが出来るのか?という問題です。もっと言えば、我々はどのようにして自分の人生を自分で引き受けて、自分なりに自分の人生を解釈し、意味付けしながら生きることが出来るのか?という問題です。この問題は、各人固有の人生において、その人だけに当てはまる具体的な悩みとなって現れます。もし苦悩が生物学的なものであるなら、医学的なアプローチが有効でしょう。しかし、医学的には健康でも、自分自身の存在に結びついた問いに悩んでいる人がいます。そのような人々には、これまでの人生を振り返って解釈し、自分自身が誰かを見つめ直し、これからの人生の意味を知ることが有効です。私は、苦悩する人を支援することが可能な哲学的アプローチについて探究します。

 二つ目の関心が、企業において哲学するとはどのようなことか?という問題です。どのような企業においても、突き詰めていけば、社内のメンバーは本当は何を求めているのか、企業はどこへ向かうべきか、といった問いにぶつかります。そのような時、これまでの前提を疑って新しい価値観を提示したり、人々を新しい目標へと方向づけたりする必要が出てきます。私は、企業において「哲学する」ことが迫られる場面を調査し、共に企業人と哲学することを通じて、企業と哲学が共生する可能性について模索したいです。

5. 研究の出発点


 私の研究は、哲学書の分析から出発します。これは、哲学におけるものの見方を社会に活かす下準備として行います。哲学者に書かれたテキストを読解し、それを私たちの生活にどのように適応出来るのかを探究します。

 哲学書の分析は、大学時代の卒業論文「ニーチェにおけるニヒリズムの克服とその現代的意義」において試みたことの延長線上にあります。私はその論文において、ニーチェの主著である『ツァラトゥストラはかく語りき』を解釈・分析しました。具体的には、人生において意味が失われてしまった場合に、どのようにそれを克服できるのかについて、ニーチェの思想を明らかにしました。そして、今を生きる私たちが受け取るべき、ニーチェのメッセージについて考察しました。それは、苦悩は自分が求めたものであると気付くことこそ、人間を生きることへと駆り立てるというものです。

6. 研究目標と目標達成へと至るアウトライン


 私の修士課程全体の目標は、哲学を実践する個人プロジェクトを遂行することです。一年目はプロジェクトの準備に充て、二年目にプロジェクトの実行に移ります。

一年目
 一年目の前半は、哲学プラクティスの全体像を把握することに努めます。哲学書の分析を行った後、ドイツ語圏の社会において哲学者が果たしている役割について講義を受けます。そして、企業や学校、病院で哲学が実践されている先進事例を調べ、そこでどのような課題が解決されているのかを明らかにします。文献調査、哲学プラクティショナーへのインタビューの実施に加えて、ウィーンで哲学を実践するプラクティショナーにアシスタントとして同行することを計画しています。 哲学者が課題をどのように解決しているのかについて詳細に調査します。

 一年目の後半は、哲学プラクティスの具体的な方法論を学びます。経営コンサルタントとして活躍するへメッツベルガー氏から、哲学対話を組織開発に活用する方法を学びます。また、哲学プラクティスの父、アッヘンバッハ氏からは、哲学者がカウンセリングを通して、どのように人を支援できるのかを学びます。 その後、ウィーンで哲学対話を試験的に開催し、場作りとファシリテーションの技術を向上させながら、プロジェクトの構想を練っていきます。

二年目
 二年目は、個人プロジェクトを計画・実行し、活動報告を執筆します。現時点で構想しているプロジェクトは二つあります。第一に、企業の中に対して経営コンサルティングを行うことです。個人とチームが健全な関係を築き、のびのび働ける環境作りに関わりたいと考えています。第二に、個人向けにカウンセリングを行うことです。人生に違和感を感じる人々に対して、これまでの人生を振り返り、自分を見つめ直す機会を創出します。

  二年目の終わりに、活動報告を執筆します。ドイツ語圏における哲学実践の現状について報告するとともに、個人プロジェクトの計画から実行までを記録します。社会の中で哲学することの内実についても考察を行います。

 以上になります。オーストリア政府奨学金の締切はGW明け、ウィーン大学の出願は6月初旬だったので、3月末から5月までは書類の準備に追われていました、、

最後まで読んでくれてありがとう〜〜!