映画『ミナリ』の感想
日本語教師のわかばです。京都を拠点に関西でフリーランスをしています。ときどきライターとして記事を書いたりもします。
今日はずっと観たかった映画、『ミナリ』を観に行ってきました。まあ、緊急事態宣言が始まってはいるけれど、映画ってそんな話すものでもないから、開いていると思っていました。ところが、大手のシネコンは休業していました。いつも行くミニシアターは時間短縮でも開いていたので、ほっとして行ってきました。チケットを買うときに「ミナリ」とだけ言葉を発しただけで、あとはマスクをして黙って観ておりました。
アカデミー賞最有力とも言われているので、この映画は韓国系の映画としては2作目のアカデミー賞を獲るかもしれませんね。パラサイトのようなハラハラ感とかエンターテイメント性はないけれど、ストーリーに静かに自分の人生を重ねられる映画で、「ああ、こんな映画が観たかったんだよなあ」と感じられる映画です。
あらすじはこんな感じ。今日の時期はネタバレを含みますので、これから観る予定の方は、観た後に読んでくださいね。
韓国系アメリカ人一家のイー一家は、ジェイコブが農業で成功することを夢見て、カリフォルニアからアーカンソーへ引っ越す。しかしジェイコブが買った土地はいわくつきで、しかも農業には向かない土地だった。
ジェイコブと妻のモニカはヒヨコの選別の仕事をしながら、農業をする。しかし、それでは、二人の子供の面倒がみられないので、モニカの母を韓国から呼び寄せることにした。
このハルモニ(おばあちゃん)が、ちょっと変わったおばあちゃんで、二人のこどもははじめはおばあちゃんに慣れることができなかった。
でも、おばあちゃんは、強く、たくましく子どもを見守り、子どもも次第におばあちゃんに心をゆるしていくのだった。
移民であるということ
人間は、移動する動物なので、昔から住む場所をうつしながら生活してきました。アメリカは移民の国だし、日本も古くは渡来人が渡ってきたし、昭和の時代では農家の次男三男が耕す地を求めて、満州や南米に移住しています。ミナリも韓国からアメリカに70年代?に来た家族の物語です。
見知らぬ土地を切り開く苦労といったら、生半可なものではありません。有名なドラマ「北の国から」では、北海道開拓の苦労を現代人は忘れてしまっているというのが、テーマの一つでした。(と思ってわたしは見ていました)
そして、土地を開拓するという大事業を果たすには、やはり支え合う家族が必要だったわけです。家族を食わせるために、土地を耕すために、子供を育てるために、家族が必要なんですね。でも、現実は辛いから喧嘩もする。家族のために働いているのか、働くために家族といるのかわからなくなります。「別れて、元いた場所に帰ろうか」とも考えますが、考えているうちに別の苦労が生まれ、時間は流れていきます。
家族を作るというのは、苦難の多い人間のDNAに刻み込まれた本能なのかもしれないとおもいました。
成功せねばという強迫観念
そして、農業にお金をつぎ込み、それが家計を圧迫しているのにもかかわらず、ジェイコブはヒヨコの選別の仕事は一生できないと言い切り、
「子どもに成功した父親の姿を見せたいんだ!」
と言います。そんな男のロマンに妻であるモニカは本当に苦しめられます。子どもは心臓病なのに、病院までは1時間もかかるし、お金はないし……。
「この成功せねばならない」という強迫観念は「何者かにならなければならない」「今の自分ではだめだ」という強い思いです。
なんだか、ジェイコブを見ているとおかしく思えてくるんですけど、これはわたしも持っているし、今の時代を生きる人もみんな持っているものですよね。
でも、成功しそうになったところで、今度は家族に愛想をつかされるかもしれないわけで、バランスを保ちながら生きるのは難しいです。
おばあちゃんという存在
子守のために韓国から呼び寄せたハルモニ(おばあちゃん)はおもしろい人です。この映画では、中心的な存在になっています。助演女優賞をとるかもしれないと言われていますね。で、実際出てきたのを観てみると「ああ、昔の人だな」という感じがしました。あまり世間体などを気にせず(気にしてもしょうがないことを知っている)。ありのままに物事を見ています。
実は、わたしは「祖母」という存在を知りません。母方も父方もわたしが生まれる前に病気で亡くなっているのです。
だから、今娘たちが、自分のおばあちゃん(夫の母、私の母)に対して、どんな感情を持っているのか、あまり理解できないのです。しかも、わたしは父親にうんと厳しく育てられて、なおかつ、家庭内に庇ってくれる人はいませんでした。家庭内における父親の権力があまりにも強すぎて、母親も父親に何も言えない状態でした。
そんな時、おばあちゃんがいれば、父親を諌めてくれたのではないか、自分を庇ってくれたのではないかと今になって会ったこともない祖母を恋しく思う気持ちが自分の中に芽生えてしまいます。「おばあちゃん、どうしてそんなに早く死んでしまったの?」と。
そして、映画を見ているときにも、そんな思いがよぎりました。
ミナリというのは、植物のセリのことです。ハルモニは家の近くの水場に韓国から持ってきた種でセリを植えます。セリというのはどこにでも根付き、簡単に収穫できる植物だとハルモニは言います。実際、そのセリはずっとその場に根付き家族を助けます。どこに行ってもそこに根付く、人間に強さを表しているとも言えるし、死んでも尽きることのない愛情のようにも感じます。
会ったことはないけれど、自分のなかにもおばあちゃんが植えたみずみずしいセリが茂っていると気がします。それを胸に今日も生きようとおもいます。
とてもいい映画です。ぜひ観てください。
では、また!
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