エッセイ 世界で一番幸せな蛙
不思議なことに、夜が明けるまでは居るのですが、昼頃に一度必ず居なくなるんですよ。
1匹のカエルが……。
どこを探しても見当たりません。
それで、日が暮れたら、私が虫捕り器のスイッチをいれ、ランプをつけるわけです。
それは、白い大きなキノコみたいな形をした機械で、まずはその灯りで虫を寄せ集めます。
ところが中でファンが廻っていて、近くに寄って来た虫を、素早く吸い込む仕組みなのです。
おそらく、夜のうちに現れて、朝起きると、いつもの場所に居るんですよ、同じ奴が……一週間続けて毎日欠かさず。皆勤賞です。
こ奴にとっては、格好の仕事、生きる術を、見つけたということなんでしょうね。
なんせ、エサである虫は、なんもせんでも、いくらでも集まってきますから。
きっとこ奴は、友人知人……いや友蛙 知蛙 にも、この場所だけは、内緒にしてるはずです。これで、一生食いっぱぐれないと思ったはずです。
もしも人間なら、一発で、神に感謝をすることでしょう。自然界では絶対に有り得ない奇跡ですから。
それでも、いちおうは人間の住処です。本来なら最も危険なはずですが……田舎の小動物は、都会と違い、人間の怖さを知らない、ウブなとこがあるのでしょうね。
まるで人間を恐れていません。
そうすると、私みたいなもんからすると、実に可愛く思えてくるわけです。このカエルが。
一晩中、足下からライトを浴びてるので、日焼けサロンも兼ねてるようで、最近なんとなく、身体がだんだん白っぽく変化しているように思えます。
手のひらを太陽に……やないけど、
たしかに、みんな生きてるよな〜……。
私も、何気にこ奴と話していて、ふと思いました。
マンションの管理人や、夜の守衛室みたいなとこに、雇われて勤めよっかなあ……ええなあ、再就職も、案外一からやるのは、楽しいかもな……。