どんぶり鉢一杯の涙
アレックス・ヘイリー原作の小説『ルーツ』を基にした、1977年制作のアメリカのドラマが話題になったのは、私が高校生の時だった。
最近、そのDVDを借りて、あらためて、見ている。35年前の記憶が、かすかによみがえる。
この作品は、米国史上最もタブー視されるといっても過言でない、黒人奴隷の問題を真っ正面から描き、米国のみならず、全世界に大反響を巻き起こした。
もしもまだ見ていない若い人たちが居れば、
ぜひ見て欲しい作品の一つである。
さて、その中の一場面。
旅に出る父親が、息子と交わす会話である。
父 「 最初の奴隷も、元は奴隷じゃなかった。 アフリカの地で自由に暮らしていた。
彼の名前は、クンタキンテ。ある日クンタキンテが、ジャングルの中で太鼓の材料を探していると、奴隷商人が彼を捕まえた。
そしてクンタキンテは奴隷として売られ、逃げ出せないようにと、片足を切られた」
ここまで父親が話すと、そこから先を息子がさえぎり、かわりに自分が語りだす。
「 クンタキンテには娘がいた。キジーだ。 彼は娘に、アフリカの言葉を教えた。 たとえば、カンビーボロンゴ は、河のこと。コー の意味は、バイオリン。キジー は次にそれを息子に伝えた 」
そこまで聞いて、父親が馬で立ち去る。
その後ろ姿を見送りながら、息子はさらに、こう続けるのだ。
「キジー の息子は、チキンジョージ と呼ばれる闘鶏師で、彼は長いあいだ努力をして、ついに自由になった…………父さんだ 」
子孫に、伝承される誓い。
これだけで、私は、どんぶり鉢一杯の涙を流せるのであった。
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