聞くと聴く
先日、打ち合わせで、LiveカフェであるWakayama のオーナー、あきもとさんが私に言いました。
「最近の人は音楽を、聞いても、聴くということをせんでしょ?」
これは、なかなか鋭い指摘です。
私のようなモノ書き系の感覚は、「聞く」というのは身体の器官としての耳から自然と脳を通じて体内にとりこまれるようなケースに使用する言葉、という感じです。
かたや「聴く」は、どうか?
「聞く」よりも、より注意深く、脳の向きをそちらに向けて……平たく言うと、聞こうという意思で身をいれて聞く……というニュアンスを原稿用紙に翻訳するときに、私は「聴く」を選択します。
たとえば、ビアガーデンで枝豆くいながら「カンパ〜イ」などとやってるときに後ろで演奏されてる生バンドは、「聞く」。
カラオケも、そう。
これと対極に飲食禁止のコンサート ホールで、アコースティックの演奏をきくのが「聴く」。
みたいな感じで……
山陽小野田のWakayamaさんなんかは、イベントによって振れ幅に差があるでしょうが、たぶん、その中間に位置するのだと思います。
音楽……生演奏でも録音物でも、それを「聞こう」と「聴こう」と、人それぞれの自由だし、その時々に、その人が置かれている状況にも大きく左右します。
ただ昨今たしかに「聴く」ということが少なくなったのは実感します。もちろん私も含めて。
そして、あきもとさんから言われた言葉をきっかけにして自らを再確認し、思うところがあり、生活スタイルを一部改善することにしました。
毎朝必ず、まあ…早起きした日は朝食前、それ以外は父親をディサービスに送り出したあと、音楽堂に腰を据えてJAZZのレコードを最低一枚、そこそこの音量で「聴く」のです。
ちなみにCDではなく、アナログのLPレコードです。
すると新たな発見がありました。
LPレコードから CDに変わったのが、だいたい1984からで、84年末には発売枚数がLPの 10分の1 だったCDが、わずか2年で逆転しました。その後新たなレコード生産はほとんど潰滅しました。
私が25歳前後です。
当初「聞き手」ではなく「聴き手」にとって、最も大きな変化は、A面、B面、という感覚がなくなったことでした。
CDはレコードとちがい、裏がえす必要がないからです。(演奏時間が長いクラシックの場合はかなりメリットがありましたが…)
そして今になって…56歳にして気付いたのです。
レコードの片面……時間にしておよそ、15分から25分くらいが、集中して「聴く」には最も適した時間だったのだということに……。
CDをきくようになってから、知らぬうちに、私の「聴く」は、「聞く」へと、薄まっていったにちがいありません。
遅いけど、これに気付いてよかったです。
きっかけをくれたWakayama あきもとさんに、感謝です。