シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇 の反復について(ネタバレあり)
面白かったです。
タイトルにある 𝄇 ってなんだろうと思ったら演奏におけるリピート記号だそうです。
そもそも、まず新劇場版シリーズ自体が、過去のエヴァの反復(リピート)と捉えることが出来ます。新劇場版3作目のQの中で、渚カヲルは、ピアノでいい音を出すにはどうしたらいい? と聞かれた時に「反復練習さ、同じことを何度も繰り返す、自分がいいなってかんじられるまでね。それしかない」と返します。これが新劇場版シリーズを創る理由そのものなのかもしれません。そして、このタイトルにリピート記号が入ったこの『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』自体にも反復が多く登場します。
アヤナミレイは、何度も何度も自分の見たものについて質問します(そして、自分の知らないものを不思議そうに覗き込むアヤナミレイの顔のアップが何度も反復されます)。
碇シンジが、相田ケンスケの家に行くと、そこで惣流・アスカ・ラングレーの裸に遭遇します。これは以前、シンジが綾波レイの家に行った時に、綾波の裸に遭遇した時の反復でしょう。
シンジの家出も(新劇場版だけで)2回目です。
そして、この映画の中での反復の極致の1つが、アヤナミレイが言った「さよなら」でしょう。
エヴァは以前に、綾波が「さよなら」と言ったことについて、シンジが「別れ際にさよならなんて悲しいこと言うなよ」と言う有名なシーンがあります。そして、今回のアヤナミもシンジに「さよなら」と言います。それは自身が死ぬ瞬間というもっとも悲しいシーンであり、そしてこの映画のアヤナミは「さよなら」という言葉を、また会うためのおまじない、と認識しているのです。この反復における変化であり深化は本当にすごいと思いました(ちなみにこのシーンのアヤナミの動きもセリフを言って後ろに下がる、という反復がおこなわれています)。
さらに引用(オマージュ)という形で、違う映画からの反復もこの映画(というかエヴァ自身)には組み込まれています。具体的にはもっと詳しい方がたくさん書かれていると思うのですが、一つ例をあげると、シン・エヴァのポスターには「さらば、全てのエヴァンゲリオン」と書かれてあり、予告編で「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」というセリフが出てくるのですが、シン・エヴァのラストシーン直前で流れる曲は『さよならジュピター』という映画の曲だったりします。
面白さというものは多層的なものであり、これがシン・エヴァが面白い理由だ! なんてことは、私に断言する分析力はありませんが、この反復の波が自分にはとても心地いいものいだった、ということは言えます。
では最後に1つ蛇足(本当に蛇足)の話を。
この映画のラストシーン、シンジがヒロインのマリに対して「君もあいわらずかわいいよ(大意)」と言います。これを観た時、シンジがこれまで絶対に言わないようなセリフを言ったことに対して驚きました。しかし映画を観終わった後に、これに近い言葉を聞いたことがあるのを思い出したのです。
私は一度だけ、エヴァンゲリオンを創った庵野秀明監督を生で見たことがあります。それは(記憶が確かなら)東京国際映画祭で庵野監督の『式日』という映画を観に行ったときでした。上映後、庵野監督のトークショーがあったのです。そしてトークショーの終わり際に、庵野監督が『式日』のヒロイン、藤谷文子さんが観客席で観にきていたことを知っていたらしく「どこに座っているの?」と壇上から呼びかけました。そして、観客席の藤谷さんを見つけて、庵野監督はこう言ったのです。
「あいかわらず美人だね」と。