五月、京都で… [第33話]

郵便屋さんがバイクで通りかかるたびにポストが気にかかる日々を過ごしている私に1通の手紙が届いたのは四月の下旬だった。

「五月のお休みに大阪の方に行きます。友だちに会うためです」
たぶんそんなことが簡潔に書かれていたはずだ。そのころの手紙は全て処分をしたし、記憶も微かになっているものの、私は会えないはずのその人にひと目会えるということで跳び上がるように喜んだのは紛れもないことだった。

彼女のいう「友だち」とは、学生時代から思いを寄せている人だった。彼女がくれるそれまでの手紙や電話で、願いは叶わぬものだが心に秘めた人があるという話を何度か聞かされていた。つまり、私はそれを知って、彼女を奪い取ろうと必死になっていたともいえようか。

そんなことはどうだって構わない。あの人は叶わない人でもいい。もう1回だけ会えるなら会いたい。私が京都を案内しよう。花の咲く古刹の庭で、言い残したことのすべてを話してこよう。

私もひと月と少しの間に、少し大人になっていた。冷静というには少し私が可哀相だったが。

そんなわけで、5月になったばかりの休日に彼女を京都駅で迎えることになった。

「時刻は9時半ね、京都駅よ」

そう言って約束し、当日を迎えるのだが、その日の朝、とんだハプニングが起こったのでした。