さよならと何度あなたに言ったやら [第21話]
本棚の奥に大学ノートが積み上げてある。
灰色の表紙が赤く日焼けしている。
「限界を走りぬけば、そこには静かさがある」
雑誌の切り抜きが表紙に貼ってあった。
中細の万年筆。ブルーブラックのインクは昔のままの色だ。
1982年(昭和57年)の1月下旬。
卒業は確定していない。
そのことは日記にはひとことも書かれてないが、次から次へと受けねばならない試験科目が連ねて書かれていることから十分にわかる。
この時期に、言ってみれば普通じゃない。
「複素解析学」の試験が終わったあと、先生に(卒業がかかっていると)お願いしに行ったくだりがある。
そのくせ、帰りにブックマートで「北の国から」を買って帰ってくる。
入学してから卒業するまで、ずっと繰り返して受けつづけた「電子回路」の試験が終わった夜に、鶴さんに電話を入れた。
一生懸命やったんだから、と彼女は言ってくれたらしい。
「明日、会いたい」
「いやだ」
そんな会話が繰り返されて、夜は更けていったのだろう。
幾日か過ぎて、2月2日。火曜日。晴れ。
夕方、鶴さんに会う。
ちょっと飲んで、
池袋で、
日記はこのあと、すべて、白紙となっている。