消し歩く。ふたたび東北 [第47話]
瞬く間に十年という歳月が過ぎ去ってゆく。その夏が終わってゆくのをやり過ごす度に、冷たく濡れながら走った阿武隈洞への道程を私は思い起こした。そして、年を追って掠れてゆく記憶を悔しみながらも何度も、もう忘れてしまってもいいのかもしれない、と自分に言い聞かせたのだった。
まさか再び、みちのくへと旅立つ元気が、私の気持ちに蘇ってくるとは考えてもみなかった。
1994年の夏。日記の冒頭には、以下のように記されている。
----
何故、東北に行くのか。その答を何度も書いては消している私がとても滑稽である。11年前、情熱だけを持って、ある女性を訪ねた旅の思い出が、東北の各所に散らばっている。今回の旅は、その思い出を「消し歩く行為」にほかならないことがわかっていながら、引きつけられるように旅に出てしまう。「芭焦」気分で東北を回ってみるのも面白いか。とにかくそんなこだわりで旅に出ることになった。
(中略)
ツーリングは建て前で、実は独りぽっちに浸りたいというのが目的かも知れない。家族を置いて旅に出ることには賛否両論があると思います。しかし、こんなひとり旅に出て初めて家族と旅をしたいと切々と思う。
GSXの調子はお世辞にも良いとはいえない。GSX最後の旅(長い旅)に出かけようという折に、今回は珍しくうちのんが写真を撮ってくれた。