終章 その4  -ネオン消えバンダナ赤し夏の夜-  [第61話]

ネオン消えバンダナ赤し夏の夜 ねこ作

もともと、この物語は「出会いの風景」で始まり「別れの風景」で終わる4話ほどを考えていた。しかしながら、書き綴りながら、鶴さんと織り成した数々の別れや出会いが増幅されて、甘味が加わっていった。自分のために悲愴感を絞ってみたり明るく泣いてみたりしてしまった。

どれだけ飲んでも酔いつぶれることのない私が一度だけ苦しいほどに飲んだ夜があったように、いっそうこのまま全てを吐き棄てて終えてしまいたいという激情に似たものがこみあがっていたのかもしれない。

いいえ。
美味くない酒はいっさい飲まない私であるから故に、酔うほどに身を任せることなどありえない。

そう。
ここで得られる仮想空間を鶴さんと旅して、私は夢心地をしばらく楽しんでいたのだろう。それは、初めて酒を飲んで酔うことを知った夜のように、うぶで柔らかく、純白で欲のない自分であり、私はそこに帰ってゆこうとしていたのかもしれない。もたれかかったその胸の中は、暖かく柔らかかったのだ…。

赤いバンダナは、この物語の中で一回だけ出てきている。郡山で過ごした夜に鶴さんが私に買ってくれたのだった。「バンダナ、買おうよ」と言って赤色のものを渡してくれた。プレゼントとか思い出などというようなやわい言葉は何もなく、渡してくれただけだった。

旅に出ると必ず赤いバンダナを私は首に巻いた。お守りであり、祈りであったのかもしれない。結婚してからもそのバンダナは使い続けていて、うちのんはその理由を知りながら、「バンダナ持った?」と出かけ前にチェックを入れてくれた。友人知人は、赤いバンダナはねこさんのトレードマークだ、と言ってくれるほどになった。

或る日、鶴さんのことを思い出して少し沈んだことがあった。どんなことを回想してしまったのか、それはもう思い出すつもりもないが、その後、バイクでぶっ飛ばしたときに、ポケットに入れていたその赤いバンダナは飛んでいってなくなってしまった。

赤いジャケットに赤いバンダナ。私の旅のスタイルはいつもそうだった。私は赤色が好きらしい。
口笛を吹き鳴らし、夕焼けを見上げる。

鶴さんが私に旅のスタイルを授けてくれたのかもしれない。

高石ともやの107ソングブック(82番)に「涙色の星」という高石とし子さんのうたがある。

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夕焼けの山に登り
想い出をよんでみた
別れた人の名は
いまも胸に痛む
私のブルースは
涙色の星 
気まぐれ青い鳥は
あなたの窓でうたう

(107ソングブックから)
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♪私のブルースは涙色の星…
そうか。なるほどね。

旅に出る。
夕焼けを眺めて、うたを歌う
口笛を吹きながら、峠を越えてゆく。

私の旅がいつもひとりであったのは、いや、ひとりでなければならなかったのは、そんな理由があったのだった。

続く