晩秋の一番星は願い星 [第16話]
実は鶴さんのことはあれだけ愛しておきながら何も知らない。血液型や誕生日だって曖昧だ。
高校時代に合唱部だった、大学時代にバスケ部だった。
お父さんがお医者さんだったけど既に亡くなっていなかった。
それくらいか。
僕たち、
深夜に長電話をして、
月に何度か、銀座で長い夜を過ごし、
休日の早朝から鎌倉に出かけたりした
…くらい。
映画をみたり音楽を聴きに出かけたことさえ一度もない。
好きだというわけでもない。
名前で僕を呼んでくれるわけでもない。
銀座の街の中を二人で歩いた。
冬が近づいているというのに私にはお洒落をするような服もなく、いつ洗ったかさえわからないようなタートルネックとクシャクシャのトレンチコートがあっただけだ。
そのみすぼらしさについても、鶴さんは何も触れなかった。
僕の話に、
いつも相槌を打ってくれる友達だったのだ。