木屋町 ソアレ [第35話]
四条河原町から東へ一筋入って木屋町通りまで来ると、静かな佇まいの高瀬川が南北に流れています。四条通りの橋の上は人で溢れていますが、一歩二歩と川の流れに沿うて上るか下るかすれば、やはりここは京都なのだと思えてきます。
ほんの二三軒分ほど上るか下がれば人の数も減り、さらさらと流れる川のほとりで枝垂れ柳が風に揺れているのをゆっくりと眺めることができます。高瀬川の水は、ここが最も栄えた歴史の時代と比べるとおそらく減ってしまっているだろうけど、私なりに京都を味わい、また過去を偲びながら川の淵に佇むこともできます。
このあたりは、夜には夜の顔を持ち、昼には昼の顔を持っています。不思議なほどに変貌してしまう京都の路地裏通りですが、私は京都に来て1ヶ月余りでしたので、観光客よりも哀れなほど繁華街のことをこれっぽちも知らず、何を考えていたのか、四条河原町までとりあえず行こうと思ったのでしょう。
先斗町へと抜ける路地裏通りなどを用もないのに子どものように通り抜けてみたり、その出口で立ち止まり振り返ってみたりして、言葉にはできないものをどのように表現したらあの人に伝わるのだろうかと思案に暮れたのだろうと思います。
お昼前のひとときを私たちは「ソアレ」という喫茶店でしばらく過ごしました。東京で別れてから2ヶ月弱だったにもかかわらず、きっと私は彼女に十年振りのような感傷で話し続けたのでしょう。
窓の外には高瀬川のせせらぎが、道ゆく人にさして気に留められるでもなく、悠々と静かに流れているのが見えていました。
続く