幻の旅 ―東北― 4  [第42話]

1983年7月30日、土曜日。

気象庁のデータでは、午後6時ころから8時ころにかけて、郡山市には1ミリから2ミリの雨が降っている。
それはまさに私が彼女の帰りを待っていた時刻だった。
記録を辿ると、さらに、深夜11時から翌日の1時までにも相当に強い雨が降った記録がある。

私たちふたりはその雨音を聞きながら夜をすごし、熱情を言葉にして私は語り続けたのだった。

そして、静かに朝がやってきた。
雨はあがっていた。

何をどう申し合わせたのか、彼女を後部座席に乗せて小さな旅に出ることになりました。

日記には、

 お母さんとお兄さんと彼女と4人で食事を取って、
 写真を撮って、彼女を乗せて出発。
 猪苗代湖の方に向かうけどパラパラ・・・。ああ。

と書いている

彼女から、「あぶくま洞へ行こう」と言い出したのだろう。その小さな旅は、二人の最後の旅なのだと彼女はきっと決めていたに違いない。

郡山市内を抜けてR49をいわき市の方に向けて走る。10キロほど走って、そこからそれてあぶくま洞へ。

再び、雨が降り始めた。
私には熱い気持ちが漲っていたのだろう。
日記には挫けた言葉はほとんど無い。

(続)