9時半・その時刻には… [第34話]
京都に住み始めて1ヶ月あまりが過ぎようとしていた。
最初、京都という街が想像以上に田舎だったので落胆して、新人歓迎会が終わる時刻に、この街の一番の繁華街に人影が疎らで、新聞紙が風に舞っていた風景が侘びしく思え、やけに尾を引いてショックを受けていたのだが、それも十日も過ぎればまさに住めば都になりつつあった。
大型連休(GW)というものを今ほどにメディアはバカ騒ぎしなかったし、休日を戴く側としても長い休みをどうしても獲得して何かをしたい、どこかに行きたいというものでもなかった。新人だったので特に欲もなかった。(車やバイク、カメラ…などは持っていなかったし)
さて、9時半に京都駅に行けばいいのだから、と単純に考えて車折の家を出たのは1時間ほど前だっただろうか。バスに乗れば40分ほどだから、余裕は十分だ。
しかし、誤算というか、しばらく待ってもバスが来ない。いや、さっきから三条通りにバスが通ってゆく姿が見えないのだ。自家用車は普通に走っているのだが、バスや、おそらくタクシーも、少ないのです。
今となっては何も珍しいとか、難しい問題ではなく、GWに突入して市内のあちらこちらで車が増え渋滞を起こしているので、バスが嵐山方面に向かってゆかないのだった。
したがって、そこから引き返してくるバスもやって来ない。数少ないタクシーに飛び乗ってしまえばよかったのでしょうが、京都ひとり暮らし1ヶ月・社会人1年生の私は即座に京都駅まで直行する手段を思い浮かべることができず、困ったなと思いながらバスが来るのをひたすら待ったのでした。
でも、バスは、1時間たっても1台も来ませんでした。はあ。
この時代にはケータイなどは、影も形も無い。どうして、もう少し早い時間にタクシーを見つけて乗らなかったんだろうか。
そのころ京都駅では、時間になっても現れない人を、「遅いけれどもうすぐ来るかな、もう少しだけでも…」と、駅のバスターミナルを見通せる通路の壁に凭れて彼女は待っていた。
「1時間以上も遅れて来るなんて、誰が想像しますか!」
そういわれても仕方がない。
ボケ、カス、アホ…です、私は。