サヨナラと三回ゆうたら夕焼け  [第37話]

あなたを乗せた列車は線路の果てに消えていってしまった。
さあ、下宿へ帰るのだ。嵐山行きのバスに乗ってトコトコと揺られてゆこう。

秋でもないのに、やけに山を包む夕焼けが赤かった。
さよなら、さよなら、さよなら。

サヨナラと三回ゆうたら夕焼け  ねこ作

映画にも歌舞伎にも1度も誘ったことがなかった。いつもひとりで行ってきて感想だけをべらべらと喋った。一緒に行きたいとあの人は思ってくれたのだろうか。そのことを自ら口にすることはなかったけれど、私と一緒に行きたいと思ったことがあったのだろうか。

もしも、あの人にそのことを尋ねたとしたら
「ひとりで行くほうがいいから(来ないで・・・・)とあなたは言うよ」
と説明するかもしれない。

しかし、たまには映画に誘いたいなと思ったに違いない。私のことを知っているからこそ、誘おうなんて考えず、それ以上を口にしなかったのだろう。

一緒にいて何を話して二人だけの時間を過ごしてきたのだろうか。今更ながら不思議だ。でも、もう今は、思い出せない。たぶん、私は自分の夢を気ままに語り、あの人は「あなたはきっと成功するわ」と相槌を打ち、頷き続けたのだろう。

京都の1日は、終わった。何も記録が残っていない。写真もない。日記もない。

彼女は私をひたすら励まし続け、幾ら結婚したいといわれてもそれだけは叶えることができないのだ、しかし、「あなたの夢が叶うように遠くからいつも祈っているから」と言い続けたのだった。

そう、
アルプスの少女ハイジを見るたびに、ケラケラケラと明るく笑うあの人が瞼に浮かぶ。彼女は天使のようだった。

♪天使が恋を覚えたら ただの女になるという (北山修)

サヨナラを呟いたあと、夕焼けを見あげながら歌おうとしても、それは歌にはならなかった。

つづく