幻の旅 ― 東北 ― 1 [第39話]
【鶴さん】 最終楽章に入ります。
しばらくは、あのときの日記を読み解きながら進むことになります。
京都駅で別れてから、まる1年と2ヶ月。
手紙は山のように書きましたが、私は鶴さんに一度も電話をしませんでした。
日記は、こんなふうに始まってゆきます。
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1983年の夏は、アンニュイに始まった。
はじめての東北は、センチメンタルな旅でした。
(この旅をきっかけに)
それで私は
東北が嫌いになってしまったかのように、北には足を踏み込めなくなってゆくのです。
思い出は化石のように風化してゆくけど、私が生きている間だけ消えなければいい。
7月28日〔木曜日〕 はれ
朝5時を少し回ったころに目が覚めた。
別に早く出発するつもりはなかったけど、気持ちがその気になったら出掛けるしかないか。
前日から用意してあったタンクバックとディパックをバイクにつけて、さあ出発。
ちょうど青山さんちの純子さんと家の前で挨拶を交わしてエンジンをかけた。
AM5:45だった。
<続く>