新たな出会いと、今生の未練と
残らず残した、気持ちと後悔
高校2年生、6月、出会いと別れの季節を越え、新たに「ぼんちゃん」という彼氏が出来ました。
時系列が少し前後してしまうのですが、どうしても書き残しておきたい「ひとくん」との出来事が、7月頃に起こるため、そちらについて先に失礼いたします。
ぼんちゃんと付き合い始めて1ヶ月ほど経った頃、私が通っていた高校で、文化祭が開かれました。
特に文化祭自体に特筆するような出来事は起こりませんでしたが、その日の夜、久しぶりにひとくんから連絡がありました。
「今日、文化祭で見かけたよ」
久方ぶりに目にする、ひとくんの言葉に、心臓はまんまと飛び跳ねました。
ただ、私は、付き合い始めたばかりのぼんちゃんに夢中でしたので、その高鳴りは、不安に塗れながら迎えたひとくんとの別れが、鳴らしたものだと思います。
何通かやり取りをし、最後に、彼氏が出来たことを伝えました。
「そうなんだ。幸せになってね」
それが、最後にひとくんから貰った、ひとくんからの言葉でした。
それから少しして、ひとくんと共通の友人から、一本の電話が入ります。
メールではなく電話、というのが珍しいものでしたから、訝しげにどうしたのか尋ねると、それは、ひとくんが亡くなった、という知らせでした。
バイクの単独事故でした。
耳にした瞬間の感情は、上手く文字に起こすことができません。それでも、その時の友人の声色ですとか、自室の窓から入ってくる風ですとか、そのようなものは、鮮明に、今でもはっきりと思い出すことが出来ます。
何日後かに執り行われた葬儀には、友人とともに参列しました。
ひとくんと過ごす時間で、彼のご家族にお会いする機会は一度もなく、葬儀の際に初めて対面させていただいたのですが、
「もしかして、はるちゃん?」
これが、お母様から頂戴した、一言目でした。
肯定しながら、どうして私の名前を知っているのだろうか、という疑問が私の表情に滲み出ていたようで、
「よく、話を聞いていたよ。背の高い、可愛い彼女ができたって」と、微笑みながら伝えてくれました。
そして、その一言で、私は泣き崩れました。
これまでの人生で、「泣き崩れる」を経験したのは、この一度のみです。
それからお母様は、ひとくんが、夕食の際によく私の話をしていたこと、笑顔が可愛いんだと言っていたこと、お別れした時期は元気がなかったことなどを、教えてくれました。
ひとくんと過ごした時間、後半の殆どを不安とコンプレックスが占めていました。
私のこと本当に好きなのだろうか、もっと背の小さい可愛い子が良かったんじゃないか、他に好きな人ができたんじゃないか。
あの頃の鬱々とした感情が、全て浄化され、それで、もう伝えることの叶わない、様々な感情が、代わりに大きな波となって押し寄せました。
お母様にお礼を伝え、葬儀を後にし、家に着いて、それからどうしたのかはよく覚えておりません。
ただ、もっと、ひとくんに色んなことを伝えて色んなことを聞けば良かった、と、心の底から後悔しました。
それからしばらくして、私はひとくんから貰った花のネックレス、そして最後の帰り際に貸してもらったネックウォーマーを、少し匂いを嗅いでから箱に仕舞い込みました。
たまに開けてみたりしながら、今でも大切に、大切に保管してあります。
これが、ひとくんとの、本当のおしまいでした。
次回から、また少し時計の針を巻き戻し、ぼんちゃんとの始まりについて書かせて頂きます。