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世界一の「たまり醤油」を学びに知多へ

中東とヨーロッパツアーを中止した。どう考えてもスムーズな日程を組めなそうだったので、このタイミングで無理をしないで日本に集中することにした。こういう決断をするときは僕は早い。どちらが正解かは分からないのであれば、選択した方を正解にすればいいという考えを常に持っている。早速、日本国内でまだ行けていないポイントを回る。その一つがたまり醤油である。以前、三河を訪れた際に次回はぜひたまり醤油もと仰って頂いたのがきっかけで、三河みりんさんよりご紹介いただきみそたまり醸造元の南蔵商店青木弥右エ門さんを訪問することになった。

近年、海外のスーパーでも飛躍的に伸びているのがたまり醤油だ。最近では3〜4割がたまり醤油と言われている。ご存知のように本来のたまり醤油は大豆のみを使う。一般的な醤油には小麦が入っており、いわゆるグルテンから含まれているセリアック病、グルテンアレルギー 、グルテン不耐症の人たちはこの小麦を避けるようにしている。アジア人にはほぼセリアック病はだいたい1%と言われている、欧米に比べて圧倒的に低いのだが、海外ゲストが多い僕らにとってはグルテンフリーに関する理解を深めることはとても重要だ。

最近は「たまりもどき」が増えてきたと五代目の青木さんは笑った。本来の醤油セールスが伸び悩む中で、大手がこぞってたまり醤油に参入して大豆だけではない原料も入れて作っていたりする。木桶の数、86桶。この数が限界だという。もう木桶を修復する人も少なくなっている、古いもので100年以上丁寧に直しながら使っているのだ。大豆と塩と木桶で作り上げていく本来のたまり醤油がここに存在する。

聞けば日本で3番目に国鉄が敷かれたエリアだという。関東地方と関西地方を結ぶ幹線鉄道への資材運搬線として建設された武豊線の起点駅、それが1886年に開業した武豊駅だ。この交通網と港に近い立地がこの地のたまり醤油蔵が増えるきっかけとなった。明治と大正のピークには50軒程度、現在では7軒へと減っている。

一般的に醤油は原料1に対して水1.2で作る。原料に対して塩水が1.2である。それに対してたまりは大豆1に対して塩水を同量の1で十水(とみず)という、そして大豆1に対して塩水を半分の0.5加えるものを五分(ごぶ)という。塩水が少ない五分は撹拌することができないために汲みかけという作業をする。石で内蓋をした桶の底にある溜をすくい上げる作業を繰り返す。

いいたまりの条件は、原料、醸造期間、木桶という。作業工程をすべて説明していただいたが、近代化されている部分と伝統を守っているところが丁寧に融合されている蔵だった。ステンレスで囲まれている室、そこで最高の麹が完成する。塩水にて守られて、丁寧に木桶で3年もの間熟成されていく。コーシャ認定も取っている同蔵は、ラビによる検査が年に2回ほどある。その度に木桶で熟成されている醤油を見ながら「生きている」という表現を使うらしい。

その桶から少しテイスティングをさせて頂いた。まだ若いが香りと甘さが優しく伸びていく。十水と五分の違いもテイスティングさせて頂いた。今までの僕のたまりの概念を大きく打ち破るようなそんな味だった。不思議なもので現地を訪れると脳内にアイディアが湧き出して止まらない。早速、その場でメモってアイディアを書き留めていく。たまりは醤油に比べると減塩効果もある、それだけ旨味の余韻が長い。

現地に赴くことで、昨今のグルテンフリー=たまりというアドバンテージ以上の、本来のたまりの存在意義を教えてもらう。最後の食事は、ご飯と醤油。海苔を少し浸して白米で食べる、そこにうちの豆味噌の汁があれば最高と青木良夫さんは笑顔で語る。父が大切に作ってきたことを、自分も継承していく、その隣には6代目となるご子息の青木良之さんがいる。僕も微力ながらたまりの魅力を世界に発信していけたらと思っている。最後に三河みりん角谷治子さんに今回の貴重なご縁を紡いでいただいたお礼を申し上げたい。



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