国民民主党公約の「基礎控除を103万円→175万円」を実行するとなにが起きるか? 補記
昨日このような記事を書きました。
しかし、どうも国民民主党の想定は私が考えていたのと全然違っているようです(リサーチ不足ですみません)。
これをみると、少なくとも年収(額面)1000万円までは所得控除等が拡大されるように思われます。手元で計算してみたところ、どうやら、所得控除等の下限である103万円を178万円に75万円ぶん拡大するのにあわせ、すべての所得で75万円の控除拡大をするという想定のようです。
https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2022/4zen17kai1-3.pdf
さすがに、高額所得者に対しての減税はしないのではないかと思うので、いったん、上の表で所得税率20%が適用される、年収1,210万円の人まで減税が適用されると仮定して試算してみます。
このグラフからだとちょっと読み取れないところもあるのですが、所得100万円以下のところとか復興所得税とかを省略してラフに計算すると、減税の総額は、約6.8兆円となります。
【内訳】
3,070万人×75万円×(5%(所得税)+10%(住民税))=約3.5兆円
1,110万人×75万円×(10%(所得税)+10%(住民税))=約1.7兆円
710万人×75万円×(20%(所得税)+10%(住民税))=約1.6兆円
これに昨日の検討を適用すると、
乗数効果が0.2として、GDP増加額が、約1.4兆円、
税収弾性率が1.3として、税収の増加額が、約1.8兆円となるので、
税収は6.8-1.8=5兆円減少することが見込まれます。
これを歳出減で補うのか、国債発行で補うのか、手段はいろいろあると思いますが、やはり予算のカットを伴わない形での実施は難しいように思います。
最後に蛇足ですが、本文中で出てきた「乗数」ですが、減税の乗数ものは政府支出(たとえば道路工事などの公共事業)の乗数に比べて、原理的に1小さくなります。
乗数は、数学的にいえば、「無限等比級数の和」です。高校数学で習ったと思うので覚えている人は思い出してくれたらと思いますが、無限等比級数の和は、
$$
無限等比級数の和=初項+初項・公比+初項・公比^2+初項・公比^3+・・・」
$$
になります。
乗数の場合、公比は消費性向といい、人が受け取ったお金を消費に回す割合です。
初項が問題で、公共事業の場合は、初項は1、減税の場合は公比(すなわち消費性向)になります。
ごちゃごちゃしてきたので、公比をrとすると、
$$
公共事業の乗数=1+r+r^2+r^3+・・・\\
減税の乗数=r+r^2+r^3+・・・
$$
となり、減税の乗数は、公共事業の乗数に比べて、ちょうど1だけ小さいということになります。
これは、減税による景気対策は公共事業よりも効果が低いということです。
1兆円の公共事業をやったときに1.5兆円GDPが増加する場合、1兆円の減税をするとGDPは0.5兆円しか増加しないということです。
もちろん現実的にはここまで単純ではないのですが、減税(〇〇給付金も同じ)による景気刺激が政府からあまり好まれないのはこのためです。
イメージとしてはこう理解すればよいでしょう。公共事業などの政府支出の場合は、なんらかの仕事をした人にしかお金が払われません。それが橋や道路を作る仕事であったり、お年寄りの介護をする人であったり、子育てのサポートをする人であったり、時には税金を中抜きしているだけのろくでもない場合もなくはないでしょうが、一応、なんらかの財産やサービスを生むことになります。
一方、減税や給付金の場合は、なにもしなくてもお金が配られます。どうせお金を配るならなにか仕事をしてもらえばよかったところ、なにもしない人にもお金を配るということになるので、そのぶん景気対策としては効果が低くなってしまうということになります。
減税や給付金は直接お金がもらえるので嬉しい気持ちはわかりますが、非効率な政策であることはしっかり理解しておいた方がよいでしょう。
よければ著書もご覧ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?