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シニア人材の労働力を活かす #174 サクセスフル・エイジング

企業が事業活動を継続発展させる上での経営資源は、ヒト、モノ、カネ、情報、知識などと言われます。

しかしながら、日本の労働力人口は、少子高齢化が進むことから、今後も大幅な減少傾向にあると見込まれています。
労働力人口とは、15歳以上の就業者だけではなく、仕事に就いていなくとも求職活動を行っている失業者の方も含まれます。

総務省統計局の人口推計(2024年2月確定値)によると、2023年の総人口は1億2,435万2,000人です。
このうち15-64歳の労働人口は7,395万2,000人、65歳以上は3,622万7,000人でした。
令和5年版高齢社会白書で2030年の労働人口を確認すると、2023年より約300万人少ない7,076万人になる予測です。

総務省統計局の人口推計(2024年2月確定値)

パーソル総合研究所の労働市場の未来推計 2030においても、2030年には雇用に対して人材が約644万人不足すると予測されています。

つまり、経営資源の筆頭である人的資源が不足状態にあります。
更には、働き方改革関連法による労働時間規制、労働環境変化による新しいスキルに対応できる人材不足など様々な要因が重なります。

これらは、企業にとって、どうすることも出来ない現実です。
この状況を受け入れ如何にして事業を継続発展させるかが大きな課題となっています。

その意味でも、近年の人事的なキーワードとして、HRが定着しています。
これは、Human Resourcesの略であり、単なる人材ではなく、人的資源を意味することとなります。
そして、経営目標の達成を目指す機能として、HRを戦略的に有効活用するための仕組み、すなわち採用、教育、人事評価、人材配置などのすべてを統括するHRM(Human Resource Management)が重要視され始めています。

仕事を二分する考え方に「ルーチンジョブ」と「クリエイティブ」があります。

「ルーチンジョブ」とは、マニュアルに沿った定型業務であったり、機械的な動作を繰り返す単調な業務などを指します。
大量消費市場に対応する大量生産の時代ならば、そのような仕事も十分にありました。
しかし、製品やサービスの価値に注目される市場への変化とパソコン、AI(人工知能)、Iotなどの機械化、オートメーション化によって、これらの仕事は減って行くと言われています。
対して、「クリエイティブジョブ」とは、AIやIotなどには任せることのできない人間の創造性を伴う業務です。

つまり、HRMの観点では、「ルーチンジョブ」をデジタルや機械化することによって人材不足を補うことが重要となります。
問題は、「クリエイティブジョブ」です。
「クリエイティブジョブ」は、どうしても経験値が高くなければ難しい業務が多くなります。
急に従事することを求めても、リスキリング(学び直し)は間に合いません。

そこで、あらためて重要視されているのがシニア人材の能力です。

多くの企業は、就業定年は、満60歳が一般的です。
ここで退職するか、継続雇用されるにしても、あまり重要な職に就かないケースがほとんどです。
もちろん、高齢でもあることから健康が最優先です。
しかしながら経験値の高いスキルを活かして、クリエイティブジョブに従事しながら、技能継承や後継者育成に努めてもらうべきと考えます。

厚生労働省が公表している「令和4年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は、男性81.05歳、女性87.09歳に達しています。
つまり、現在の日本における一般的な就業定年の60歳以降も、男性では20年以上、女性では25年以上の人生が残っていることになります。

アメリカで生まれた考え方に「サクセスフル・エイジング」があります。
これを日本語で解釈するのは難しいところですが、「老後の生きがい」とか、「幸福な老い」と捉えて良いのかと考えます。
それは、アメリカや日本の研究者の意見によると、長寿、生活の質向上、社会貢献などで構成されると考えられています。

生活の質を考えた場合、運動、音楽、絵画など様々な趣味は、「サクセスフル・エイジング」の要素かと思います。

休日は趣味の登山

加えて興味深い要素が社会貢献です。
社会貢献(Productivity)とは、有償労働、無償労働、相互扶助、ボランティア活動、保健行動などであると考えられています。
特に有償労働と言う価値観は、アメリカ人と言うよりは、日本人特有の考え方で構成に加えられたとも言われています。
仕事に対して生涯現役などと言う想いは日本人ならではの労働に対する倫理観や美意識のようです。
実際、内閣府(令和2年)の報告では、日本人の高齢者の内で「働けるうちはいつまでも働きたい」という人が20.6%であり、働きたい年齢に制限を設けている群を加えた場合には、実に67.9%の高齢者が就労に意欲的であることが分かっています。

日本社会が抱える問題である労働力人口の減少と、高齢者の高い有償労働の意識を良い意味で依存し合うことは有益であると捉えます。

頼られる存在

シニア人材の能力は単なる労働力ではありません。
その長年の経験に裏打ちされた優れた能力を、特に後継者育成に活かしてもらいます。
その意味でも、個々のサクセスフル・エイジングとして活かせる生活の質向上や社会貢献も考えたHRMを推進して行きたいと思います。

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