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あゴッホよりふつ〜うに 〜おもしろくやがておそろしき傑作ドキュメンタリー『クラム』〜

アメリカンアンダーグラウンドコミック界の先駆者ロバート・クラムを追ったドキュメンタリー『クラム』見た。50年代の西海岸でモテない青春時代を送りLSD体験で得た妄想をバネに伝説のコミック誌『ZAP』を創刊、自身も異様にポップかつ細密だが完全に頭のネジが外れた作品を投稿しまくり一躍スターに。
代表作は『フリッツザキャット』、おそらく最も有名な作品はジャニス・ジョプリンのアルバム『チープ・スリルズ』のジャケットイラスト。が、本人はロック嫌いで(そりゃオタク君だもの)モテなかった思春期の状況は「有名になって逆転した」と言うが、それでも鬱屈妄想嫌女流パワーは些かも衰えず、ロバートの漫画はしばしば「女性差別的」「人種差別的」である点を非難される。
とはいえ後世に与えた影響は計り知れず、本作を監督したテリー・ツワイゴフは後にロバートの影響下にあるダニエル・クロウズのコミック『ゴースト・ワールド』を映画化、カルト的な人気を呼ぶことになる(現在絶賛リヴァイヴァル上映中!)。
また本作はロバート・クラムという特異な人物を通してひとつの戦後アメリカ史を浮かび上がらせるというひそかな企みを持っており、ドキュメンタリーという枠組みを取っ払って見た上でも大変旨味のある映画なのだが、残念ながら話はそれで終わらない。
ロバートは男三人女二人の五人兄弟の次男で、出演を拒否した妹たちを除き(なにをか言わんや)、兄と弟がかなり重要な“役どころ”で登場してくる。この二人の存在がフィーチャーされていくにつれ、当初狂気のゴッホと思われていたロバートが実は献身的なテオに過ぎない事実が明らかになってくる後半の展開がひたすらに恐ろしく、見る者にヘヴィーな後味を残すのだ。
作ることの狂気。才能とセルアウトの本来的な無関係。兄弟から揃って「あいつ」と呼ばれる父の抑圧。戦後アメリカ社会のトラウマたる“幸福な家庭”像。
現在ではあらゆる意味で制作不可能な、人間存在のダークサイドに迫る傑作。
『ゴースト・ワールド』ファンもぜひ。


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