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【ego.2】人の話を聴くということ

私は文章や会話に於いても、比較的攻撃的で大袈裟な表現をよく使う、所謂「口が悪い」と言われるような部類だが、こう見えても優等生タイプだ。

幼稚園生の頃から、おままごとや遊びを何かと仕切ったりしていた。学級委員ももちろんやったことがある。合唱コンクールで指揮者も伴奏者もやった。
よく学校あるあるネタとして表現される「ちょっと男子ー!ちゃんと歌ってー!」と叫ぶような女の子だった。
授業中も「うんうん」と頷きながら先生の話を聞いていた。
しかし、勉強の成績はそこまで良くなかった。
それは何故か。端的にいうと、先生に褒められたかったのと、怒られたくなかったからだ。

「傾聴の姿勢」というのを、必ず学校で習う。
相手の話は「聞く」のではなく、「目で聴く」というような教えだ。
私は先生から言われたそれを忠実に守ってきた。
どんな人に対しても。

ただ、大人になるにつれ、人が話を聴く姿勢に対して、徐々に違和感を覚えていった。
皆、人の話を目で聴くどころか、顔も合わせず、相手の話を聞いているようで、自分の話すターンを今か今かと待っているのだ。
そして傾聴をしているように見える人は、その人の話に興味があるのではなく、聞いた話を自分の中で何に生かすか、それしか考えていないのだ。
まさに、人の話をいてしかいない。
私が思う傾聴をしている人と出会ったことは、正直一度もなかった。今でもそう思う。

私が考える「人の話を聴くこと」は、「相手の物語を嗜むこと」だ。

人が話すことはどんなことでも物語であり、その物語は実際はドラマや映画とほぼ同等ぐらい面白い。
話し手側の話す技術とか、表現力なんてものは必要ない。不足した部分は質問すればいい。
言うなれば、ドラマや映画を見てる最中に巻き戻再生したり、伏線回収をその場でしてしまうような楽しみ方。それは聞き手側に委ねられているし、どんな楽しみ方でもいい、むしろ相手もそれを喜んで受け入れるのだ。

そして、あくまで「嗜むこと」。その人の物語に干渉してはいけない。
ドラマや映画では無論干渉できないのが当たり前だ。主人公にイライラしても、ヒロインが可愛くなくても、そこに手は加えられない。
だが、未熟な主人公は最後に最恐の悪役を退治するし、可愛くないヒロインは最終回には結婚したいくらい良い女に見えてくるのだ。
しかし、人の話になると、皆それができない。
話を遮ったり、口を挟んだり、ましてや物語そのものを改変しようとさえする。

人の物語なんて、ドラマや映画ほど面白いわけがない、と言いたくなる人もいるかもしれないが、そんな筈はない。
既に膨大な量の作品や物語がこの世に存在し、沢山の物語が好まれ続けているからだ。インディーズの作品を好む人もいるし、B級映画だって、B級だから良い人もいるのだ。
大事なことは一つの作品として楽しむ心を持つ、それだけ。

そして、もう1つ、その物語を盗むことをしてはいけない
ドラマや映画の物語となれば盗作してはいけないのは明白だ。だがこれも、人の話となると当たり前のように皆、盗み始める。
話を聞く目的が、自分の作品を作る材料として、相手の物語の展開や表現を収集することになってしまっている。
物語そっちのけで、画角や撮影方法を参考にするだけで作品を見られたら、映画の制作者からしても大層失礼な行為だ。

ただ、インスパイアとなると少々話は別だ。
その時は情報収集でなく、単純に物語を楽しむためにその人の話を聞いているのであれば、後にそれが自分の物語に影響を与えることは、あって良いことだ。
それはオマージュとか、インスパイアを受けたことを公言する作品と同等である。
だが、そこにはその作品から影響を受けたことに対して、尊敬の意があるのが前提だ。

世の中には共感する技術や、相槌の適切な打ち方とか、そういったノウハウが散漫しているが、私が思う「人の話を聴くこと」の本質には程遠い。
ドラマや映画を見るとき、主人公に共感しようと考えながら見るだろうか?ここで適切なリアクションをするべきだ、と考えながら見るだろうか?

そう思っているから、人の話が面白くないのだ。

人の話を物語として聴くこと。
そうすれば勝手に相手の話に共感できるし、自然とリアクションも出てくる。

私でも、最初は褒められるため、怒られないために始めた「傾聴の姿勢」かもしれない。
だが、この世の中は、誰もが一度は習う「傾聴の姿勢」を、軽視してる人が多すぎるのではないか。
「人の話を聴くこと」に真剣に向き合うことができれば、人々はもっと幸福になれる。
そこにもはや技術などいらない。単純にその物語を嗜む姿を相手に見せればいい。
それが相手の自信になり、自己理解になり、社会貢献だと感じさせる膨大な力になるのだ。

あなたが次に誰かと話すとき、続きが待ち遠しいドラマを観る感覚で、相手の物語に耳を傾けてみてほしい。

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