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詩「白い天井」
「白い天井」
黄色い手帳を見ると思い出す
父の見ていた白い天井を
灰色の床と白い壁に支えられた白い天井を
白い天井は動かない
常に同じ場所にある
小さな染みや傷の痕跡も動かない
時計だけが進む
一時間…二時間
六時間…七時間
十時間…
毎日景色は変わらない
時間だけが進む
目を瞑り別の景色を期待したことも数知れずあったに違いない
しかし白い天井は白い天井のままだった
幻覚さえ見たという
それでも白い天井は変わらなかった
薄暮で床が赤錆色になり照明で鼠色になっても
消灯で真っ暗になっても
白い天井は動かない
空が見たい
父はそう言った
夢が叶った翌日父は逝った
白い天井が父を解放した
手帳の最後の頁には日付だけが記されている
黄色い手帳は、几帳面な父が入院中の出来事を細かくメモした日記です。芥川の原稿と同じように、最初は力強く大きな文字だったのに、次第に小さくなり弱々しくなっていきます。
もうすぐ父の命日なのです。お坊さんにお経だけでも唱えてもらおう。