プルチック・モデル -感情を理解するためのフレームワーク-
今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
マーケティングをする上で「顧客理解」は欠かせないものですよね。顧客理解を掘り進めていくと、「人間理解」に突き当たります。そして、人間を理解する上で重要なことは「感情」を理解することです。
ということで、今週は感情について理解を進めるためのフレームワーク(?)をご紹介したいと思います。
プルチック・モデル「感情の輪」
今回皆さんに紹介したいのは、心理学者のロバート・プルチック氏が提唱した「感情の輪」というモデルです。このモデルは、「感情とは色彩のように基本になるものがあり、その掛け合わせでいくつもの感情が生まれる」とするものです。
色の三原色と言えば、シアン・マゼンダ・イエローですよね。これらの色を混ぜ合わせることで幾つもの色を生み出せるわけです。例えば、「青」という色をとってみても、ターコイズブルー・スカイブルー・藍色・群青色など様々な色があります。このように、色の濃淡や他の色との配合で無数の色を生み出しています。
感情も同様に「基本の感情」というものが存在します。感情の場合、その基本となるものは喜び・信頼・恐れ・驚き・悲しみ・嫌悪・怒り・期待の8つです。これらは円環の中でそれぞれ対になるようにできています。
対になる感情はそれぞれに移行しづらいと言われています。例えば、信頼している相手を嫌悪することはなかなかないですよね。
感情の濃淡
色に濃淡があるように、感情にも濃淡があるとするのがプルチック氏の主張です。
例えば、「怒り」の感情は薄まれば「苛立ち」、強まれば「激怒」といった具合です。感情は薄まるほど隣り合う感情との境界が曖昧になるという特徴があるそうです。
UX(User eXperience)の設計などで活用できそうなのが、「期待」の感情です。
弱い段階で「関心」を示します。徐々にその感情が高まると「期待」に昇華しますが、行きすぎると「警戒」になってしまいます。広告を見ていて、あまりに美味しい話すぎると、「胡散臭いな」と感じてしまうのはこの感情の濃淡が作用していそうですよね。期待値のコントロールをする上で、過剰に期待させることは避けた方が良さそうですね。
感情の掛け合わせ
さて、青と赤を混ぜることで紫ができるように、感情も掛け合わせることで別の感情を生むことができます。
例えば、「信頼」という感情と隣り合わせの「喜び」を掛け合わせることで、「愛」が生まれます。一方で反対隣の「恐れ」と「信頼」が掛け合わさることで「服従」になります。
プルチック・モデルでは、隣り合う感情同士だけでなく、一つ飛ばしの感情同士も掛け合わせることができます。例えば、「信頼」の隣の隣にある「期待」と掛け合わさることで「運命」、反対の隣の隣「驚き」と掛け合わされば「好奇心」が生まれます。
さらに、二つ飛ばしの感情同士も掛け合わせて別の感情を産みます。「信頼」を基準に考えると、隣の隣の隣は「怒り」と「悲しみ」です。「怒り」と掛け合わせると「優越」、悲しみと掛け合わせると「感傷」が生まれるとしています。
感情の輪の全体図
こちらは、下記ウェブサイトから無料でダウンロードできる資料ですので、興味があればサイトを訪れてみてください。ウェブサイト上では、気になる感情をクリックするとその解説を見ることができます。
ポジティブ・ネガティブ
基本の8つの感情のうち、ポジティブな感情は「喜び・信頼」のみ、ネガティブな感情は「恐れ・悲しみ・嫌悪・怒り」の4つ、そして「驚き・期待」は中立な感情とされています。
ポジティブな感情よりも、ネガティブな感情の方が多いんですね。
人は、ポジティブな刺激よりもネガティブな刺激の方が強く反応するそうなんです。
消費者の感情を衝くインサイトのことを「ハート・オープニング・インサイト」と言いますが、このインサイトを検討するときに役に立ちそうじゃないですか?
例えば、日本を代表するマーケターの森岡毅氏が手がけたUSJのキャンペーンを見てみましょう。概要は氏の著書にこう記されています。
どうでしょう。一見「喜び」と「信頼」からなる「愛」というポジティブ感情に訴えているようにも見えますが、その実は「期待」と「恐れ」かなる「不安」や、「信頼」と「悲しみ」からなる「感傷」などのネガティブな感情に訴えかける演出です。この演出で集客は前年比倍増したのだとか。
まとめ
感情を理解することで、UXへの活用やインサイト開発に役立てることができそうだと思ったので、今回の記事を書くに至りました。
例えば、ユーザーを説得するためには「信頼」を勝ち得る必要があります。感情の輪の隣り合う感情同士は互いに影響し合うことを考えると、ユーザーに「喜び」や「不安」を感じさせることで、「信頼」を得ることができるかもしれません。
一方で、自社へのイメージがネガティブな場合、反転させることが難しいものです。そこでネガティブなイメージを弱めていって、隣り合う感情との境界を曖昧にしてから、ポジティブなイメージへの転換を図るなど、プルチック・モデルは非常に示唆に富んでいます。
ユーザー理解もとい人間理解のために、感情をしっかりと理解するのも一つの手立てかもしれませんね。なんといっても、ニーズ=欲求は感情と強い結びつきを持っています。ユーザーニーズの理解こそマーケティングの本質だとするならば、欲求を掻き立てる感情を制することがビジネスを制する近道かもしれません。
あとがき
「中の人」はそんなにインサイト開発が得意なわけではないんですよね。いや、「インサイト開発めっちゃ得意です!」ていう人がいたらなかなか怪しい気もしますけど。(笑)
で、インサイトの中でも「ハート・オープニング・インサイト」を衝くことができればそのインパクトは絶大だなと思っていたので、今回は「感情」について勉強してきました。
書きながら思っていたのですが、インサイトだけでなくUXの設計だったり、LPの構成だったりにも十分活用できそうだなぁと。それだけでなく、自分の感情についても理解することで、自分を律することができそうだなぁなんて考えていました。
本当にマーケティングって学際色が強くって、いろんな分野の知識を横断的に活用していかなければならないので、難しい。故に面白いですよね。
そんな感じで、今週は「感情」についてのお話でした。
それではまた来週お会いしましよう。
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