見出し画像

【n%フィクション#2】だいたい淡い

もうはっきりと覚えていない

ただ、窓から吹くアスファルトと落ち葉が混ざったような冷たい風が鼻を掠めたことから中3の10月か11月のことだったと思う。ブレザーやベストを着込んだ胸部はやたらに暖かいのに顔や手の表面だけはほんのりと冷たい、そんな冬の訪れを肌身で感じるこの季節が好きだ。

受験への不安は感じるものの、何をするかといえば特に何もしない。ほぼ帰宅部みたいな部活動に所属していたのにも関わらず、いつも下校の未来予想図Ⅱが流れるまで、誰とも決めずくだらない話を続けて帰路についた。たかだか2時間もない時間だったはずなのに今よりもずっと長くて儚い。

「結局さ、〇○の好きな子って誰なのよ」

その日も、当時仲の良かった△△さんと2人残って教室で駄弁ってた。効きの悪い暖房と隙間風がなんとも言えない。議題の主たるは共通の男子友達だった○○の恋愛事情。

「絶対✕✕ちゃんでしょ!!見え見えなんだからさ、とっと認めちゃいなよ」
「いやいや、黙秘権よ」

✕✕ちゃんもまた共通の女子友達で、クラスではこのメンツ+αでよくつるんでた。そして、△△さんの予想は実際当たってて、2人が実は両思いのことを自分は知っていたので内心はかなり焦ってた。言えば間違いなく○○からただじゃ済まない、とはいえ下手な反応は余計に怪しまれる、どうやって乗り切ろう、足りない頭で画策するも時間はもっと足りない。

「交換条件△△さんの好きな子教えてくれたら別に良いよ」
「私はいないかな~?」
「絶対ウソやん」
「さあねー」

余裕綽々と言わんばかりのニヤニヤ顔でさらりと流す。渾身の一手は一瞬で無くなる、さてもう手がないや、席立とうにも荷物は△△さんの近く。こういうときってサッサと逃げるのが最善手なのに、どこかこう後ろ髪を引かれ残ってしまう。自分が帰ったあと△△さんはどんな顔をするんだろうか、言えば怒られるのに聞かれた相手の顔色を考える。八方美人由来の無類の口の軽さだ。

「ま、といいつつ。言質取りたいだけで知ってるんだけどね」
「え?」
「〇〇と✕✕ちゃんお互い好きなんでしょ?」
「✕✕ちゃんの好きな子は本人から。〇〇のは吹部の友達から聞いたよ」
「ふーん、どうだろう...?」

文面のみは余裕ぶっても、気づけば腕を組み言葉は声はどこか上擦っている。ブラフか否か。ニヤニヤ顔から一転、少し真面目な顔からは真意が1つも読めやしない、ダメだここはもう賭けでいこう。

「で、どうなの」
「へーへー、そうだよ。両思いだよ。見守ろ見守ろ」
「え!?、マジで両思いなの!!!!????」
「これは大ニュースだ!!!!!!!!!!✕✕~~~!!!!!」

「しまった!!」と思ったときには、もう遅く△△さんは教室から出る、こんなことを本人にバラされれば、戦犯である自分はただじゃ済まない。一生軽口の十字架を背負う羽目になるぞ。急げ急げと慌てて教室を出た、廊下には数人しかおらず、すぐに見つけて追いかける。しかしなかなかに捕まらない。△△さんの体力があるのか、自分の体力がないのか、多分両方なんだろう。
 吹部の部室前、ようやくそしてギリギリのところで捕まえる。危ない、女子ばかりのこの部室に入って追いかけ回す程自分のクラスカーストは高くないんだ。肩で息をする自分に対して後ろ姿の△△さんはどこか落ち着いていた。

「絶対言っちゃダメ!!!!、マジで駄目です、お願い!!!!」
「え~、どうしよかっな?」
「ここは見守ろうよ、絶対言わんほうが幸福値高いって!!」
「自分がバラしたのを知られるのがマズいだけなんじゃないの~?」
「それは...」

保身半分の心に、△△さんの言葉がグサっと刺さり思わずうろたえる、同時に見透かされたくないことを見透かされたことで、次の言葉は思っていたよりもずっと語気を強めていた。△△さんだって詮索しようとしていたじゃないか、多分そんなことが言いたかったんだろう。

「いいかげんにしー」

言い終えることもなく、自分は固まる。無理やりに振り向かせた△△さんの顔にいつもの余裕はどこにもなく、目は少し赤かった。怒鳴ったせいで?脳裏に過るものの、いつもの態度がそれを否定し、この瞬間の異常さをより際立たせる。まるで、こみ上げる感情を無理矢理に抑えた表情じゃないか。何でそんな淡い期待が潰えたような顔をするんだ。

その後、どうなったか覚えていない。△△さんは部室に戻った気がするし、そうじゃない気もする。ただ言えることは、○○と✕✕はその後しばらくして付き合って、グループ自体はそこまで大きな変化はなかった。

よく中学のあの頃は良かったなんて話を聞くし、自分もちょくちょく口にする。しかし「自分に濡れ衣を着せたあの子とその後どうしたのか」、「いつも一緒に帰っていたあの子とは実際どれくらい帰って何を話していたか」など思い出とは名ばかりに風化する、美化と印象ばかり残った記憶は事実の何%を語っているんだろうか。多分自分が期待してる程に過去は素晴らしくないんだろう。

もうはっきりと覚えていないのに中学時代の日々は、いつも淡く輝く。

だいたい淡い。 10%?フィクション



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集