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マンガ実写化に大岩を投じる劇場版『ゴールデンカムイ』(2024)

期待値最低から始まる実写

実写映画化が発表されたとき、Twitter(当時)は阿鼻叫喚だった。

それまでに日本映画界が積み上げてきた実績も散々だった。
「実写化」が意味するのは、安いコスプレ衣装のテカリ、理由なく変更される性別や人格、なかったはずの色恋やドタバタには失笑すらもったいなく、疲れていった屍は山となった。

原作『ゴールデンカムイ』自体も、ハードルを上げていた。娯楽として消費されるはには重すぎるほど、巻末には綿密な取材と膨大な参考資料、文化と言語の監修が並ぶ慎重な作品だった。

映画をつくるとなったとき、もちろんビジネスである以上は予算・日程・キャスト・想定収益などなどが計算に入る。
時代設定は明治、直接取材が難しい二〇三高地、そして動物との戦闘など、避けたいコスト要因や不安要素が全部詰まったような作品に、多くの大衆の目にふれる映画化への不安が募るのは当然だった。

結局、ファンは「嫌なら観なきゃいい」と「観てないのに批判するな」の言葉に挟まれて、希望の見出しようもない状態にされていた。

「怒りや悲しみは期待があるから生まれてくる。ならば期待は捨てよう」と擦り切れた状態になっていたところに降ってきたのが、あの告知だった。

いつまでも封切られない実写

実写化が決定したことを一般人が知ったのは、原作29巻の発売日、2022年4月19日だった。
ワクワクしながら書店に新刊を買いに行って、膝から崩れ落ちそうになったあの衝撃と悲しみを今も覚えている。
しかし、年末になっても、翌年になっても、公開日どころかキャストもなかなか発表されなかった。

キャストの公開も少なく、時々「エキストラで参加しました!」というツイート(当時)を見かける以外に情報はなかった。

最終的に、情報公開から劇場公開までにかかったのは1年と9ヶ月ちょうど。
Adobeによると、アクション映画の製作決定から公開までは『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、制作に5ヶ月かかり、その15ヶ月後に劇場公開だというが、製作決定から情報公開までの期間も考えると、実写邦画にしてはかなり時間がかけられているような気がする。

1,900円で“何”を観るか

様々なものが値上がりし、映画館も料金の値上げを実施した。期待もできないものに対して、場合によっては絶望を再確認するためにランチ2.5回分のお金を払う酔狂がどれだけ残っているだろう。

今作が絶望のもとにならないことはすでに多くの人が発信している。
私がそこに重ねて言いたいのは、「どれだけ原作をリスペクトしているかを観察するだけにお金を払ってしまうと勿体無い」ということと、本作は「マンガ実写化の転換点になりうる」ということだ。

お金と時間をかけて1本の映画を観ることが昔よりもずっと重くなった今、1回目を「どれだけ原作を再現しているか」のチェックに費やすのは非常に勿体無い。

この作品には、これまでに存在した作品の中でも原作へのリスペクトに選りすぐりの熱量が注がれている。これまでに積み重ねた観客の絶望を前提に劇場に行ってしまうと、きっと一度の映画体験で得られるものがずっと減ってしまう。
セット、動き、声、音、自然、質感、時代、色、服、などなど、あらゆる技術とプライドがここにかけられている。

原作を知らず、ただ「マンガの映画化だろう」と舐めてかかっている人には頭から浴びせてやりたいくらいの熱さがここにある。

そしてこの熱さは、原作がある映画の一例として、今後参照されていく可能性すら秘めている。マンガ原作がこれまでにどのような扱いを受けてきたか、どれだけ制作側の都合に振り回されて「誰も望まなかった作品」になってしまったのか、将来の地点から映画史として振り返ったとき、実写版『ゴールデンカムイ』は転換の例として君臨しうるのだ。

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